小学校の頃から勉強が得意だったあたし。特技を活かしたいと思い、勉強が必要で、活かせる職業に就きたい、と考えていた。
 母親の影響で、よくテレビドラマを見ていた時だった。
あたしは、雷に打たれたみたいな衝撃を受けた。
そのドラマでは、クールな女弁護士が大活躍していた。
女だからと見下されながらも、勝訴を勝ち取っていく姿。弁護人を男女関係なく平等に接する姿。そして何より、1人法廷に立ち、弁護人を弁護する姿に感銘を受けた。
「カッコイイ、、、」
魅力的に感じた。
中学に入り、一層勉強に精を出した。もちろん部活でも活躍していたし、文武両道頑張っていた。
でも、夢を語ることはできなかった。絶対反対される。目に見えてわかっていた。両親は普通に働いて、普通の家庭を築くことを望んでいる、ごく普通の人たちだから。娘には苦労しずに、それなりの高校へ行き、それなりに頑張って働き、普通の幸せを掴んでほしい、そう願っているのを知っていたから。
弁護士になる。
それは、口に出せない、夢物語だった。

あの日までは。

あるテスト返しの日。
「やった!」
あたしは5教科全て95点越えだった。しかも、得意な英語は100点だった。
なんであいつが?いや、絶対カンニングしてるだろ。そんな声が聞こえてきた。
そんなことを言われるなんて、心外だった。
「そんなこと、するわけ、、、」
反論しようとしたけど、クラスの全員の目が、敵に見えた。
思わず口をつぐんでしまった。
その時。
「えぇ!姫路さん100点?すっごい!本当にすっごいね!なんで取れるの?あ、、、もしかして、何か目指してるものがあって、そのために頑張ってるとか?夢とかのために勉強頑張ってるの?」
 と勢いよく喋ってくる女子がいた。
あたしが戸惑っている間も、その女子は明るく訊いてきた。
「え!?えと、、、。その、、、」
 そう、声を出すと、その少女は瞳を輝かせて英子の言葉を待っていた。
「弁護士、、、に、、、なりたいなって、、、思ってたり、、、」
 少女の圧に負けて、心にしまっていた、夢を語ってしまった。
「弁護士?すっごい!すごいよ!絶対なれるよ!私、応援する!私が保証する!」
 元気にそう続けた女の子。
ずっとすごいすごい!絶対なれるよ!と連呼していた。
後から潮見風奏という名前だと知った。
「そう?ありがと」
 思わずそっけなく、言ってしまった。

 でも、本当は、、、。本当は、ものすっごく、嬉しかった。
夢を、口に出せば、何故か、本当に叶えられそうだと思えた。
 風奏はそれを気づかせてくれた。
夢に向かって立ち止まっていた、あたしの背中を押してくれた。
あたしは風奏に救われた。

でも、お礼を伝えることはできなかった。両親の都合で引越しをすることになってしまったから。
いつか、会った時感謝を伝えたいと思った。
今更、何言ってるんだ、とか思われるかも知れなかったけど、それだけあたしは救われたから。
だから、伝えたかった。

中学3年の頃、思い切って両親に夢を伝えた。
両親は最初驚いたように言葉をなくしていたが、すぐに笑顔になって、『応援してる。頑張ってみなさい』と言ってくれた。
この出来事も重なり、ますます彼女にお礼を伝えなきゃと思った。

そして、今。
高校に入学した時、同じクラスに『潮見風奏』の名前があるのを見つけた。
奇跡だと思った。
神様が、お礼を伝えるなら今だぞ、って言ってるみたいだった。
感謝を伝える時だと思った。

でも、、、風奏はあたしのことを覚えていなかった。

それは、そうだよ。中学1年の頃だもん。覚えてるこっちが悪いよね。とあたしは一度諦めていた。
だけど、風奏の中学からの変わりように戸惑いを覚えていた。
いつも素直で、優しい彼女が、人目を気にして、下を向いてばかりな子になっていたから。
なんでも正直に自分の気持ちを言っていた彼女が、周りに合わせて、自分の気持ちを押し殺すようになっていたから。
あの、変わりようは、なに?なにがあったの?風奏の姿にあたしは悩んだ。
しばらく考えたのち、あたしは行動を起こした。
風奏に直接コンタクトしたのだ。
風奏を変えたきっかけを探り、なにかできることはないのか。今度はあたしが風奏を助けたい。そう思ったのだ。