私は、指をピアノに置いた。
息を吸い込む。
指を静かに動かした。
ピアノの音が音楽室に響き渡る。

気持ちが軽く、指も軽い。
清々しい気持ちだ。
ピアノの音が心地いい。

だが曲の半分ほど過ぎた頃、指が少しずつ重くなってきた。
頭もズキズキ痛む。

だめ、逃げちゃダメ。
最後まで、弾くんでしょ？
止まったら、だめ。

心の中で自分に語りかけていたら突然、歌声が聞こえてきた。
それは、力強くて、包容力のある、とても優しい声だった。

千絃だ。
この優しい歌声は、千絃だ。
そう思った瞬間、指が､､､軽くなった。
千絃の歌声に合わせて、簡単に軽く動く。

そのまま、私のピアノはクライマックスに入った。

楽しい！
､､､今まで、ものすごく、辛かった。
ピアノの音が怖かった。
でも､､､みんなのおかげで、千絃の歌声のおかげで音の楽しさを、思い出させてくれた。

私の心の中は、嬉しさでいっぱいになった。
私は千絃の歌声に助けられて、最後まで､､､音を奏でることが、できた。

「風奏､､､。やっぱすげぇな。ピアノ」
　感嘆の声を上げた。
「ありがと」
　私は嬉しくなってまた目頭が熱くなった。