だから奏で続ける君への希望歌(ファイトソング)を

──音楽室。

そういえば千絃と出会ったの、此処だったな。
私はふと感慨深くなる。
でも、ほんの一ヶ月前の出来事なんだよな。
千絃、音楽室にいるかな、と恐る恐る音楽室の扉を開く。

「、、、千絃いる?」
 声を掛けながら音楽室に入るが返事が無い。
「いない、、、か」
 私は迷わずピアノの前に行く。

ピアノの鍵盤に両手をおく。
適当にいろんな音を鳴らすから音楽室には不協和音が響く。
私、やっぱり英子傷つけちゃった。
こんな私は、いない方が。
私の方こそ、英子や、あの子のそばにいない方がいいんだ。
きっと、、。

「おい、ピアノに怒りぶつけるんじゃねぇって言ってんだろ」
 突然、不協和音以外の声が響く。
私は驚きピアノに置いていた手を離す。
「千絃、、、いつのまに?」
「あ?いつでもいいだろ。ってか、来いよ」
 怒っているようでいつもより口調がトゲトゲしい。
 そして、私の腕を掴む力も強い。
少し強引に立たせるとベランダへ私を引っ張る。

「お前さ、ピアノ弾けば落ち着くって言っときながら、怒りぶつけるって何?ピアノにあたるんじゃなくて空見ろって言っただろ?」
「、、、見ても変わんないよ。私は変わらないんだよ。変われない」
 私はどうしようと変われない。
「は?見てから言えよ。いっつもお前は何も見てねぇのに決めつけて。だから弾けなくなったんじゃねぇのかよ。逃げてばっかりだから。ピアノを最後まで弾くことから逃げてるから」
「っ!?」
「、、、なんて説教するつもりはねぇ。だって、、、俺も逃げてるから」
 突然自嘲気味に笑った。
「、、、は?」
「でも、そうやってさ、逃げてても苦しいだけじゃん?で、俺はその苦しさとか、嫌な気持ちをさ、空見て癒してるんだよ。だから、、、逃げててもいい。けど、空見ようぜ」
「、、、うん」
 何故か、千絃に言われると素直に頷ける私がいる。
ゆっくりと視線をあげる。
その先には、、、雲ひとつない澄み切った青空が広がっていた。
「ほら、お前の近くにはこんな綺麗な世界があるんだぜ。青空、夜の星空、夜明け、夕焼け、曇り空、虹。風が吹く音、雨の音、雷の音。どんな小さなものも綺麗だ。俺にとって尊い綺麗な存在。それを見ようとしないなんてもったいねぇぞ」
「ねぇ、、、どうしてそういうものって綺麗なのかな」
「うーん、、、何でだろーな」
「綺麗は綺麗でいいのかな」
「いいだろ」
 私たちは見つめ合い微笑み合う。
と、朝の予鈴がなった。
「、、、今日英子が来てないんだ。だから、、、」
「は?お前寂しいのかよ?なら俺今日教室いてあげるけど」
 急におどけた口調になる。
「、、、は?」
「ほら、早く行くぞー」
 軽い口調で私に話す千絃く。
私を励まそうとしてくれているのがわかった。
こういうところ、わかりやすくて不器用なんだよな。
「、、、うん。でも、英子、私のせいで」
「は?そう思ってるなら謝りにいけよ」
 前を歩く千絃の足が止まった。
「連絡先、教えてもらったんだけど、連絡もつかないし。家も知らないし。」
「、、、じゃあ、放課後、一緒にヒメのところ行こーぜ」
「え?ほんと?」
「あぁ。たぶんヒメのことだから風邪でもこじらせてるんだろ。あの雨の中傘無しでかえったみてぇだし。放課後の方がいいだろうし」
「うん、わかった」
「ってかりちの野郎はなんにも知らねぇのかよ?」
「うん。連絡来てないって」
「、、、そうか。じゃあやっぱり行くしかねぇよな。行って、お前の気持ちちゃんと伝えねぇと」
「そう、、、だね」
「、、、昼休みに音楽室行こうぜ。また。、、、りちも誘って」
「うん」
 私が頷いたところで私たちは教室に着き、ちょうどチャイムも鳴った。