だから奏で続ける君への希望歌(ファイトソング)を

「英子、、、。どうしよう、、、私、、、また、、、」

、、、また、、、?

いきなり、心臓が高鳴る。
息が荒くなり、手が震える。

「風奏?、、、おい、どうしたんだよ?風奏!」
 千絃の声が聞こえる。
「、、、千絃、ごめん。大丈夫、だから」
「、、、来い」
「何処に?」
「ピアノのある場所」
「ピアノ?」
 私は思わず千絃の方へ目を向ける。
千絃に手を引かれ、部屋を出る。
そして千絃は部屋の右隣の扉を開いた。

「ほら、ピアノ」
 千絃が指さす方向にはピアノが置いてあった。
「グランドピアノじゃねぇけど、音は合ってるし、いいやつだぜ。、、、弾いて気分落ち着かせろよ」
「え?!なんで、、、」
「ハァ、、、見てたらわかるっつーの!ってか弾いて欲しいんだけど。また、、、聴きてぇし」
「え?何を?」
「お前のピアノだよ、バーカ」
 頭を掻いて照れたように言った。
「、、、ありがとう」
 私は呟きピアノに向かって歩き出す。

ピアノ、、、。
やっぱり落ち着く。
鍵盤に触れる感触、透き通りような音、音と音の重なり、本当に心地いい。

「、、、、、、」
私はピアノの前に座り鍵盤を押した。

Walking in the Night

私の、好きな曲。
最近ルイスの曲を他のも聴いているが、この曲がやっぱり堂々の一位だ。

歌詞の意味もギターのメロディも、ルイスの歌声も全てが綺麗で、聴いていたら、元気をもらえる、そんな歌。

友達だった子に、、、教えてもらい、好きになった。ピアノで弾きたいと思った。
それで頑張って練習して、弾けるようになった。
でも、、、今は、、、。

「ッ?!」
 胸が、痛い。
呼吸が荒くなる。
でも、、、今度こそ、全部弾きたい。
千絃が、こんな私のピアノを聴きたいって思ってくれてる。
また弾けなかったら、、、。

「風奏、、、」
ダメ!止めないで!お願い!、、、止まらないで。
「ッ!、、、」
 そう思っても、何度願っても、、、私のピアノを弾く指は止まってしまった。

「風奏、、、」
 千絃が私を呼ぶ。
心なしか硬い声に聴こえる。
「ごめ、、、」
「やっぱお前すげぇよ!ありがとな、弾いてくれて!」
「え、、、?」
 すげぇ?ありがと?
 私は拍子抜けしてしまい、口を聞けなくなった。
「すげぇな〜めちゃくちゃ綺麗だし」
「わ、私、最後まで、弾けなかった、んだよ?怒ら、ないの?」
「、、、はぁ?お前何泣いてんだよ?」
 呆れ顔で千絃が訊く。
「、、、あ」
 いつの間にか私の頬は涙で濡れていた。
「ったく、一回弾けなかったからってビービー泣いてんじゃねぇよ」
「でも、、、何回も、こうなんだよ?弾けなくなっちゃったの。何回やっても、うまく弾けないの。最後まで、、、弾けない」
「別にいいじゃねぇかよ。俺、風奏が上手く弾けるようになるまで待ってるからさ」
「え?」
「だーかーら、風奏が最後まで弾けるようになるまで待ってるっつってんだよ」
 私は穴が開くほど千絃を見つめた。
「、、、これから、絶対弾けるようになるって、っていう慰めなんて言わねぇ。ただ、風奏が最後まで弾ける日を待ってる奴がここにいるってことを知っとけ。ってか別に最後まで聞かなくても俺お前の音がめちゃくちゃ綺麗って知ってるし、それで充分だけど」
「うんん、最後まで、、、弾きたい」
 慌てて首を振る。
「なら、俺は待ってるぜ」
 屈託のない笑顔を私に向けた。
「、、、うん。ありがとう」
 気づけば私は素直に頷いていた。