それからしばらくして、本番の撮影が始まった。
「お待たせしました!新曲リリースです!高校での事情で忙しくて、予定より遅くなってしまいました!すみません!では、、、お楽しみ下さい。“ i want to listen to your voice ”」
 千絃の短い挨拶の後、律がギターを弾き始めた。
英子が言ったように、優しい音がした。
優しいメロディが体に入っていくようだった。
そしてギターのイントロの後、短く息を吸う音が聞こえ、千絃の歌声が響き渡った。

「ッ!!、、、、、、」
 私は息を呑み、何も言えなくなった。
聴いている人の心に届く、力強い、けれど包んでくれるような、包容力のある、あたたかい歌声だった。
真っ直ぐ私の心に刻み込まれる歌詞と、優しいメロディ。自然と目が潤んでくる。

『ずっと、君の声を聴いていたいんだ。いつ、見失うかわからない君の音を、ずっと聴いていたい。永遠に』

という歌詞に私は胸が詰まった。
歌詞の中の主人公は、君の声に勇気をもらったのかな。永遠に聴いていたいって、一種の告白なんじゃないの?と感情移入しながら曲を聴いた。
耳に流れてくる律のギター、千絃の歌声は、心地よかった。

「「、、、ありがとうございました!!stRINGs melody.でした!!」」
 その一言で本番の撮影が終わった。
「ふぅ、、、。お疲れ、ちづ!ナイスボイス!」
「おう!りちもナイスギター!お疲れ!」
 お互いにどちらからともなく拳を突き合わせた。
ぱちぱちぱち、と私と英子が拍手をする。
「すっごい!2人とも!最高だった!ギターのメロディといい歌詞といい、心にグッとくる曲ね!」
「うん、、、。すごく、感動した、、、」
 英子に習って感想を伝えようとしたが、その一言しか出てこなかった。

「、、、まじで?」
 突然千絃が声をひそめ驚いたように訊き返す。
「え?うん、感動した。、、、英子みたいに、長文で感想言いたいんだけど、感動した、、、しか出てこないよ、ごめ」
「バカ!」
 自分の語彙力の無さに自嘲気味に伝えたのを突然千絃が口を挟んだ。
「感動した、、、で充分に決まってんだろ?謝んじゃねぇよ」
 本当に嬉しそうに、頬をあからめ、目を細めながらそう言った。

「、、、、、、?」
 私は千絃の初めて見る表情に驚き、押し黙ってしまう。
「、、、何だよ」
「あ、いや、何で感動しただけでいいの?」
 正直に疑問を口に出す。
「、、、みんなに、感動したって言ってもらえたら嬉しいから」
「そっか」
「いや、やっぱり、、、風奏に感動したって言われたら、なんか認められた気分に、、、なるから」
「え?!認められた?どうして?」
「、、、いつか、もっと俺の歌で感動させるから」
 そう呟くとそっぽを向きこの話は終わりだというように口を閉じた。

私に認められる?意味わかんない。
どういう意味?