「あのね、あたし、中学校があの2人と一緒って言ってたけど、中2からなんだ」
 着々と準備をする2人を眺めながら呟いた。
「え?、、、転校してきて、一緒になった、、、ってこと?」
 私は初めて聴く話で目を開きながら訊く。
「、、、うん、そうなの」
 また少し寂しそうに曖昧に笑みを浮かべる。
「2人がね、、、喧嘩してる日に出会ったの」
 昔を思い出すように遠い目をしながら英子は語り出した。
「あたし、転校してから学校に馴染めなくて。勉強ばっかりしてるような子だったから。近寄りずらいって周りから思われちゃって、、、。で、1人公園でブランコ漕いでたんだ。そしたら、いきなり同じクラスの男の子2人が、目の前の大きな樟を挟んで、背中合わせで座ったの。1人はギターを持って呆れてた。1人は頬杖ついて不貞腐れてて」
「それが、りちくんと千絃だったんだ」
「そう。なんか2人とも機嫌が悪そうに見えて、、、早々に立ち去ろうって思ったの。でもね、突然歌が聴こえた」
「歌?」
「ちづくんが、、、その時は、不貞腐れてた方だけど、、、歌い始めたの。私はわからなかったんだけど、、、なんか、ごめんねって歌ってるみたいだった。ほんと、あたし音痴だからよくわからないけど、そんな気持ちが溢れる歌だなって思った。そうやって聴いてたら、次はギターが聴こえてきたの」
「りちくんの、ギター?」
「うん。優しくて、すごく上手くて、あたしの、、、クラスに馴染めなくて辛い心を、、、溶かしてくれる、そんなギターの音がしたの」
 胸に手を当て、ゆっくりと噛み締めるように呟いた。
「そうなんだ。仲直りの演奏ってこと?」
「それもそうなんだけど、、、違うの。思わず演奏が終わった後、すごかったって感想を伝えたの。そしたら2人なんて言ったと思う?、、、いや、今のは即興で思いついた新曲だから下手だ、俺も即興で合わせてずれちゃって、、、もっと練習しねぇとな、って言ったの」
「えぇ!即興で歌作れるの?」
 私は思わず大きな声で叫んでしまった。
慌てて手を口元に持っていく。
「びっくりでしょ?あたしも驚いちゃって。思わず叫んでたら2人はバンドを組んでて今日が新曲の締切なのに何も考えずに学校にちづくんが来たことが喧嘩の原因で、今即興で作ったから仲直りっていうのを話してくれたの」
「そういうことだったんだ、、、。すごいね、千絃とりちくん」
「そうだよね、千絃、すげぇよな、、、」
 ふと英子じゃない声が上から降ってきた。
「わ!りちくん、、、」
「ひゃ!、、、律くん」
 私たちは軽く悲鳴をあげ肩をビクつかせる。
「おどかしちゃってごめん。でも話聞こえちゃって、俺もちづはすげぇって思うからつい」
「そこは自分もすげぇだろっていうところよ」
 英子が突っ込む。
「俺のことすげぇって思ってくれてるんだ。ありがと〜」
 律の軽い口調に英子は赤面した。
「もう!、、、律くん、準備は終わったの?」
「うん、でもちづが休憩したいって言ったから、本番までにはまだ時間があるんだ」
「そういうことね」
「ってか、今の話聴いて昔のこと思い出したよ」
「昔?」
「俺とちづの出会い」
「えぇ?あたし小さい頃からずっと一緒の幼馴染だと思ってたんだけど!」
「私もそうだと、、、」
「え?違うよ。小学校だぜ、あいつと出会ったの。小学校4年生かな、、、あ、ちなみに小学校は違ったんだ」
「えぇ?!嘘、、、」
「小学校4年生の時、ギター教室の帰り、あの公園の樟の木の下で1人大熱唱してる少年がいたんだ。、、、それがあいつ」
「大熱唱?」
「おぉ。1人でアカペラで歌ってたんだ。しかも英語の曲。びっくりしたけど結構上手くてさ。なーんか惹かれて、気づいたら俺、伴奏してた。で、お互いに、お前上手いな、相棒にならねぇ?って気づいたら言ってた」
 その時のことを思い出したのか少し呆れ気味に、そして少し嬉しそうに言った。
「へぇ、、、そんな出会いが、、、」
「りちー!待たせたな、本番やろーぜ」
 私が律の話に相槌を打っていると千絃が楽しそうに口を挟んできた。
歌うこと、律のギターの演奏と合わせることが本当に大好きなようなとても明るい笑顔だった。
「静かにしとけよ、お前ら。、、、雑音ひどいと、聴こえねぇから、、、」
「わかった」
 私は静かにしないと千絃の歌声や律のギターが聴こえなくなってしまう、という意味ととり頷いた。
「ッ!?、、、おう、よろしく」
 一瞬驚いたように目を開いた千絃だったが、すぐ真剣な口調に戻った。
「、、、?頑張ってね」
「わかってるよ」
 ぶっきらぼうに頭を掻くが、目は真剣そのものだ。
初めて、千絃の歌声を聴くなぁ、、、と感慨深くなる。
思わず見つめていると英子が肩を叩いてきた。
「え?何?」
「べっつにー?」
 英子が口角をあげる。