「英子、今から何処に向かってるの?」
 学校からそのまま英子について歩くこと数十分。私は英子にまだ行き先を教えてもらっていなかった。
「、、、ちづくんの家。もうちょっとで着くわ」
「え?!千絃の?」
「だって、風奏、『あれ』が気になってるんでしょ?あれは、説明するより見た方が早いもの」
 平然と言う英子に思わず首を傾げてしまう。

「いたいた!律くん!ちづくん!」
 英子が2人を見つけて、手を振った。
私と英子は2人のそばに行く。
「あ?なんで風奏がいるんだよ?」
 尖った口調で千絃が言う。
ごめんなさい、と謝ろうとすると
「ちょっとそんな言い方しないでいいでしょ?風奏に今まで秘密にしてたんだから、本番の日くらい教えてあげてもいいんじゃない?、、、黙ってたのは、恥ずかしいからでしょ?素直になりなさいよ」
 英子がたしなめる。
「情報が漏れるのが嫌だったんだ。ごめんね、今まで黙ってて」
 律が私に謝ってくる。
「え?別に気にしてないよ。ってか私、いまいちよくわかってないんだけど」
「そうだよね、、、今から」
「りち!なに勝手に言ってんだよ!」
 律の説明を遮り、千絃が律を押し私の前に来る。
「今から、、、俺らは、新曲の発表をネットでするんだよ」
 ぶっきらぼうに頭を掻きながらそう続けた。
「、、、、、、新曲?!ネット?!、、、どういうこと?」
 私はたっぷり10秒ほど考え千絃の言葉を繰り返した。
「ったく、、、ホントお前バカだよな」
 呆れたように千絃がため息をつく。
「俺とりち、ネットで音楽活動してるんだ」
「そ、stRINGs melody.(ストリングスメロディ)って名前で活動してる!」
 千絃と律が順に説明してくれた。
「で、、、今日はそのstRINGs melody.の新曲発表の日。そのレコーディングを今からするの」
 英子が嬉しそうに説明する。
「すごい、、、」
 バンドを組んでいるとは言っていたけど、ネットで活動をしていたなんて、驚いた。
しかも今までネットにあげた動画の再生回数は一万を超えていた。

「今からリハーサルするから、ヒメと風奏、じゃますんじゃねぇぞ!」
「はいはい。隅っこの方でおにぎりでも食べよ。ね、風奏?」
「あ、うん。、、、おにぎり持ってきたの?」
「えぇ。こうやって動画出す時はいつも此処で見てるの」
「そうなんだ、、、。英子も楽器弾けばいいのに」
「いや無理無理!!だってあたし楽器弾けないの!しかも音痴だし」
「え?!そうなの?」
 勉強ができる英子だから、てっきりどの方面もできる人だと思っていた。
とんでもない、とでもいうように頭をブンブンご振っている。
「楽器弾けない代わりに、マネージャーっぽい感じでたまーに動画編集とか撮影とかを手伝ってる、って感じ」
 楽しそうに微笑みながら英子が言う。
私もつられて微笑む。
「今度カラオケ行こうよ。あたしがどれくらい音痴か聴かせてあげるわ!」
「やめとけ風奏。こいつの歌、俺の心臓が持たねぇ」
 私をカラオケに誘う英子に千絃が口を挟む。
「ちょっとちづくん!律くん助けて〜」
「うーん、、、俺も遠慮するかなぁ」
「えぇ!?」
「あはは、冗談!」
 仲のいい3人の会話を見て笑いが込み上げてくる。
そんな穏やかなムードで動画撮影の準備が始まった。