今日は1日を無事に終えた。
体調も崩さなかったので私は安心して息を吐いた。
そして私はまた、あの公園のベンチに腰掛けた。

「今日も来たのか?」
 顔を横に向けると千絃が鉄棒に座っていた。
「千絃も来たんだ」
 私がそう答えると不服そうに
「俺は目的があって来てるからな」
 と続けた。
「目的?」
 首を傾げ訊く。
「あぁ」
 頷いただけで続きは言おうとしない。
「空を見る?でも今曇ってるよ?しかも雨もポツリポツリって降ってきたし」
 今日も空を見ようとしたけど、あいにく午後から曇り予報で小雨も降ってきた。

「バーカ」
「は?」
「違ぇよ」
「何が?」
「俺が此処に来る目的」
 呆れたように肩を上げる。
まるで外国人のような仕草だ。
「別に俺が此処にいるのはただ空を見たいわけじゃない。練習、しにきてるんだ」
「だから何の?」
「、、、相棒とバンドの練習。俺、バンドのヴォーカルなんだ」
「相棒?、、、バンド?!ヴォーカル?!」
 千絃の言葉を繰り返し、驚いて千絃を見つめた。
 当の千絃は少し頬を染めて髪の毛をガシガシとかきあげた。
長めの前髪が浮き上がりおでこがあらわになる。

「だから、ルイスのこと知ってたんだ」
 バンドをしてるから、音楽に詳しいんだ。そう思い声をかける。
「いや、俺はルイスに憧れて、音楽を始めた」
 静かにつぶやいた。
「ルイスに、、、憧れてるんだ」
 千絃は確かめるようにもう一度繰り返した。
何故か千絃は何かを願うように切なく目を伏せた。

「今日も、、、晴れてたら良かったのにね」
 私はその表情にいたたまれなくなり、空を見上げた。
 少し雨が強くなってきた。
そして風も冷たくなってきた。
「バーカ」
「は?」
「別に、、、空、曇っててもいいだろ」
 言葉の割に穏やかな表情だ。
「なんか、、、空が曇ってたら気持ちも沈まない?ずっと晴れてたらずっと気持ちが軽くなるのに」
 ずっと空が綺麗だったらいいのに。
千絃が空は綺麗って教えてくれて心が軽くなった。だから、ずっと綺麗な空を見ていたい。
そういう気持ちでいっぱいだった。
「確かに、俺もそうは思うけど、、、。でも曇ってる時の雲の色、雨が葉っぱに落ちる音、風が強く吹いて雲が激しく動く姿。ってこういう天気の時にしか感じられないだろ?あと、太陽が沈んだ後の雲、めちゃくちゃ紺色で、綺麗だぜ?だから、雨が降ってても曇ってても俺は空を見る。あと、運が良ければ虹も見れるしな」
 嬉しそうに私に向かって笑いかけてきた。
「虹、、、か。そういう発想はなかった」
 雨上がり、確かに大きな虹がかかる時がある。
「俺の心の代わりに空が曇ってくれてるって思えるし。代わりに泣いてくれてる、とも思うし。俺は曇ってても空は綺麗だと思う」
「千絃ってなんていうか、芸術家だね」
「は?当たり前だろ?音楽家だぜ?」
「あ、そっか」
 私は小さく吹き出した。
「音楽家だから、当たり前、か」
「おう」
 嬉しそうに頷いた。