「じゃ、私は」
 隣に置いた鞄を持って立ちあがろうとした。
「待てよ」
 鋭い声が聞こえた。
 またその声に萎縮し思わず鞄から手を離し顔を上げる。

「空、見ろよ」

 唐突にそう言った。

「そ、空?」
 私は男子の言った言葉の意味がわからなくて気の抜けた声になる。
「あぁ。空」
「、、、何で?」

「、、、何処かに怒りをぶつけたい時。何かに悩んでて、泣きたい時。辛いことがあって、もう何にもしたくねぇって思う時。、、、そういう時、空を見れば、気持ちが晴れるから」
 私を真っ直ぐと見つめる瞳は嘘を言っているように見えなかった。
 でも、私はただ空を見るだけでこの心の中のものが解決するようには思えず、地面を見た。

「騙されたと思って、上、向けよ」
 不意に声が横から聞こえた。
男子が私の座っているベンチの隣にある鉄棒にいつのまにか腰掛けていた。
 私は、本当に?と困惑しながら見つめる。
 男子は笑みを浮かべて空を指さした。
恐る恐る、ゆっくりと私は顔を上げた。