「そういえば、由季くんの教室ってどこ?」
「僕の教室は、ここだ」
 そう言って、ある教室のドアを開けた。
 彼女は、教室をキョロキョロと見て、時には触って教室を観察している。
「じゃあ、由季くんの席は?」
 僕は、毎日座ってる席へと腰を下ろす。すると、晴乃も僕の横の席へと腰を下ろした。
 俺も、とユズルが僕の後ろにある席へと腰を下ろす。
「由季って授業何て聞かずに窓を見てそうだね」
 晴乃は、窓へと視線を向けた。窓の向こうにある空は、満月な月が輝いている。
「心外。僕はちゃんと授業を聞いてる」
 晴乃は疑い深く見つめてくる。その目は、本当に?と聞いている。
「本当。ちゃんと聞いてる」
「ならいいけどね。あっ、私音楽室とか他にも見てくるね」
 晴乃は、声を弾ませながら教室から出ていった。
「ユズルは行かないのか?」
「別に四六時中ずっといなきゃいけないわけじゃないからね」
 ユズルは、さっきまでのふざけた笑みじゃなく、誰もが見惚れるような、儚くて綺麗な笑みを浮かべていた。
「なぁ、由季はさ。晴乃のことをどう思ってるんだ」
 ユズルは普段では考えられないような真剣な顔をして聞いてくるから、言葉が詰まる。
 僕は、晴乃のことをどう思っているか。
 残り二日で死ぬ少女。そして、よく笑い、どこまでも自由な女の子。
 そう思ていたはずだった。
「ねぇ、晴乃が言っていることを本当に信じる?」
 まさか、死神であるユズルにそんなことを言われるとは思わなかった。だって、彼が憑いている時点で彼女の死は確実なはずだ。
「信じるも何もユズルが死神で、晴乃に憑いていることから信じるほかないでしょ」
「まあ、そうだよね。じゃあ、このままだと手遅れになるかもね」
 さっきからユズルが言っていることが理解できていない。
 手遅れになる?何が手遅れになるんだ?
「じゃあ、ヒントをあげる。彼女は案外寂しがり屋で、泣き虫だよ」
 ユズルが言っている晴乃の特徴と僕が知っている晴乃の特徴は正反対だ。
「でも、それと同時に前向きで、誰にも弱音を吐かない」
 それを聞いて、屋上で見た晴乃の顔が浮かび上がる。
 勘違いだと思った。ほんの一瞬だったから、気づけなかったあの顔の裏側。
 知るはずがなかった。彼女の本音。それを知ってみたいと思った。