そう言って、屋上のドアからひょこっと頭をのぞかせた。
「いや、だったら僕もいい」
 彼女は、一瞬顔を曇らしたように見えたが、すぐにいつも笑顔に戻っていた。たぶん、僕の気のせいだと片づけた。
「じゃあ、行こうか?」
「よし、俺も久ぶりに青春しちゃうぞっ」
 ユズルがキャピッとぶりっ子ポーズをとる。その様子があまりにもカオスで、面白かったからクスッと笑いが零れ落ちた。
「よし、青春するぞ!」
 晴乃は、拳を晴天に突き立てた。
「あー、きれー」
 あれから、電車に揺られ十五分、駅から十分歩いて海ついた。晴乃は叫んでいるけど、僕は綺麗で声が出ないでいる。ユズルは、晴乃と一緒に叫んでいる。
 グイッと、腕を引っ張られる。僕の腕をつかんでいる手を伝っていくと、目の前の海よりも綺麗な笑顔の晴乃の顔だった。しかも、そのまま、波のギリギリの場所まで引っ張られる。
「はい、由季くんも何か叫びな?」
「由季も何か叫ぶの?じゃあ、みんなでなんか叫ぶ?」
 ユズルは、珍しいものを見るような目つきで僕のことを見降ろしてくる。
「じゃあ、私はね」
 晴乃は、少し考える素振りをし海に体を向ける。そして、すーと息を吸う。
「私は、残り三日、青春送るぞー!」
 その晴乃の叫びに続き、ユズルも息を吸う。
「俺も、青春謳歌するぞー!!」
 次は由季の番だ、と言うように視線を向けてくる。勝手に叫びだしたのに、僕まで巻き込まないでほしい。
 しかも、何を叫べばいいんだ。望みなんてない。僕なんかが生きるんじゃなくて、晴乃みたいな子が生きればいいのに。
「由季くんが、これからも生きていけますように!」
 晴乃は、僕に生きてほしいと思ってるんだ。なのに、僕は・・・。
「僕も、晴乃と青春、謳歌するぞー!」
 やっと何を言うか決めて叫ぶと、横で晴乃が笑っている。ユズルにかぎって「俺は?」とか言ってる。
「楽しい!」
 この瞬間に思ったことを海へと叫ぶ。すると、ユズルも晴乃も次々と叫びだす。周りから見たら、海に向かって叫んでいる変人なんだろう。でも、僕はこの瞬間が永遠に続けばいいと思ってしまった。叶うはずない願いだ。時間は、僕たちのことを待たずに進んでいく。そんな世界に僕は、泣きそうになった。