「由季くんは始め、つまんなさそうな顔をしてたよ。でもね、少しずつ明るくなっていってたよ。私から見てだよ?君がどう思っているなんかわかんないからね。でも、私は楽しかったよ」
 晴乃は心の中の言葉を全て言い切ったような顔をしているつもりなんだろうけど、眉間にしわが寄っている。
「じゃあ、なんで嘘をついたの?」
 ずっと意味がわからなかった。嘘をつく必要がどこにあるのだろう。
「嘘はついてないよ。晴乃は始め『この世から消える』といった。あながち間違ってはいないよ。この世じゃなくてあの世にいくからね」
 はじめ晴乃の言葉を聞いたとき、少し違和感を持った。これが違和感の正体だったんだ。
「そうだよ。だってさ、由季くんは傷つくでしょ?だから、死ぬことを言うことで君は私を警戒する。だから、傷は浅いと考えたんだ。でも、バレちゃいみないか」
 もし晴乃は死んでいなくて、これから死ぬんだとしても傷は浅くならなかっただろう。僕は晴乃に惹かれていた。好きになっていた。それを後悔しないかと言われたら、しないと言えるだろうか?
「じゃあ、由季くん。私が今から言うことは無視してくれてもいいよ」
 晴乃の瞳から涙が次々と溢れ出ていく。
「由季くん、好きです。由季くんの笑顔が大好きです。だからね、これからもずっと笑っていてください。つまらなそうな顔をしないでください。この気持ちを無視してくれもいいから、私という存在を忘れないでください。こんな存在がいたなってたまに思い出してくれればいいから」
 ああ、彼女もしていたんだ。絶対に叶うはずのない、実るはずもない恋をしていたんだ。おいていく側の気持ちなんてわからない。けど、自分の思いを僕にぶつけてないている晴乃の背に手を伸ばし、抱きしめる。
「僕も晴乃が好きだ。絶対に忘れない、忘れたくない」
 ギュッと腕に力を入れ耳元でささやき、晴乃と見つめあう。晴乃は顔をトマトみたいに真っ赤にし、頬に涙が伝っている。涙を指の腹ですくい、クスッと笑った。
「顔、真っ赤」
「うるさいな。でもね、忘れてくれてもいいんだよ?ほかの人と幸せになってくれていいんだよ?」
 泣きはらした顔で見つめてくる。その瞳は切なそうに揺れていた。その目を見ていると、こっちまで泣きそうになってくる。
「ああ、でも僕は忘れてやらないからな」
 グッと涙をこらえてながらも笑いかける。
「はは、由季くんっぽいね」
「僕は絶対に晴乃だけを想うよ」
 目じりに溜まった涙を払う。そしてフッと目を細めた。
「私も由季くんだけをずっと想う」
 そう笑っていた。そして、スーッと空気に溶けるように消えていった。屋上には僕とユズルだけが残された。
「なぁ、本当に晴乃だけを想うの?」
 ユズルは僕の目を見つめて離さない。