「私はね。もう死んでるんだ」
 その言葉を聞いて点と点がつながっていく。
 彼女がずっと制服だったのは死んだ時が制服だったから。
 僕らが行っていた場所は人気がない場所だった。じゃないと周りの人から見れば、僕は独り言をブツブツ言っている変質者でしかない。そう気を使ってくれたのだろう。
「ね?言っても大丈夫だったでしょ?」
 その様子だとユズルは、僕に秘密を話すことをよく思っていなかったらしい。
「なんで・・・」
 ユズルは大きく目を見開いて、泣きそうになっている。
「なんで、平気なんだよ。晴乃はずっと笑ってたよ。死ぬって俺が宣言した時も、死んだ後も『死にたくなかった』とか『生きたかった』とか弱音一つ言わなかった」
 晴乃は確かに弱音を吐いているところを見たことは一度もなかった。だからってなんとも思っていないわけがない。
「だから、死んだ後も後悔がないようにしなよって言ってくれたんだ」
 ユズルは晴乃にそんなことを言っていたらしい。だから、『まあ、そんな感じで死ぬから小説みたく青春したいなと思いましてね。君、付き合ってくれない?』なんて言ってきたんだ。
「人間はいつも泣いている。自分が死ぬことを恐れている。由季、お前もだ」
 ユズルはこっちを向き、まゆをひそめている。
「由季だって晴乃に死んでほしくなかったはずだろ?もう少し早く出会っていたら俺に敵意があったはずだ」
 いつもヘラヘラしているユズルの口調が荒々しい。
「なぁ、なんでお前らはさ。そんなに笑ったり冷静でいれるんだよッ」
 ユズルの顔からは理解できないという感情がにじみ出ている。
「死神はな、元は人間だったんだ。人間の時の記憶を持つやつもいれば持っていないやつもいる。俺は後者だった。憶えていないんだ。
でもな、晴乃の前にも担当していた人間が大勢いた。そいつらは、死にたくない死にたくないって泣き叫んでた。でも、その気持ちが俺にはわからないんだ。お前らを見ていると、昔の自分を見ているような感覚になった。憶えていないのに。だから、後悔してほしくない。晴乃、お前はどうしたいんだ?どう思ってる?」
 ユズルは鋭い視線で晴乃を見つめる。晴乃はグッと眉を寄せ俯く。
「私はね、あと四日で死ぬって言われてたんだ。でもね、実感がわからなくて好きなことをせず、未練が残ったよ。でも、人が天に行くまで四十九日間はこの世にいてもいいって言われて、少しずつ未練をユズルと解決してきたよ」
 俯いていた晴乃は顔を上げ、まっすぐと僕を見据える。そして、フッと微笑む。
「だけどね、残り三日ってところで一つだけ心残りがあった。それが君だよ、由季くん」
 一度空を見上げて、目が合う。晴乃の目には涙が溜まっていて、今にも零れ落ちそうだった。
「由季くんのことは生きていたとき、名前だけ知っていたよ。でも、死ぬってわかったときね。君の詰まんなさそうな顔を見て、笑わないのかなって思ったことがあるんだよね。でもさ、私のことは誰も見えないからどうしようもないなって諦めたとき。君に出会った」
 晴乃はどこか懐かしむような、どこか遠くの出来事を見たような顔をしていた。