僕は、朝一番に学校へと向かった。そして、職員室のドアをノックする。昨日の夜、考えていた。もしかしたら、彼女と同じ学校なんじゃないのかって。確か、晴乃とここに通う女子生徒の制服が同じだったような気がする。
「失礼します」
 職員室ではポツポツと先生が座っていた。その中から、担任の先生を見つける。
「あの、少し聞きたいことがあってきました」
 僕が職員室に来ることを想像してなかったのか、先生は目を見開いて驚いている。だけど、すぐさまハッと気づき、笑いかけてくる。
「あぁ、なんだ?聞いてくれ」
「松山晴乃って知っていますか?」
 晴乃の名前を聞いて先生は、一瞬顔をしかめた。そして、目がだんだんと赤くなっていく。
「松山・・・か。彼女は転校したことになっている」
 したことになっている(・・・・・・・・・・)
「どういう意味ですか?」
「答えてやりたいが、すまん」
 たぶんだが、彼女の親にでも言わないでくれと言われているのだろう。
「いえ・・・」
 先生に一礼し、職員室から出る。そして、晴乃がいるだろうと思われる屋上へと向かって走る。
 したことになっている。それは、本当は転校したわけではないということ。じゃあ、晴乃はどうなったんだ?
 そして、ユズルが言っていた『ねぇ、晴乃が言っていることを本当に信じる?』という言葉。それは、晴乃が嘘をついていると言っているようだ。何を?どうして嘘をつく必要があるのだろう。
 屋上へ続く階段の上から冷たい風が吹いて、髪がぐちゃぐちゃになっていくが、整えることなく階段を上がっていく。
 バンッとドアを開ける。屋上には、晴乃とユズルが柵にもたれかかっていた。
「なぁ、晴乃は何を隠してるんだ?」
 晴乃はそれを聞いた途端、諦めたような苦しそうな顔をする。
「私は――」
「晴乃は今日、この世から消える。それが真実で事実だ」
 晴乃の声を遮ったユズルは、眉間にしわを寄せていた。
 この世から消える。この世?死ぬとかじゃなくて?その言い方に違和感を覚える。
「この世から消えるって、どういう・・・」
「そのまんまの意味だよ」
 ユズルは晴乃が声を出す暇もなく言う。
「ユズル、ごめん。私が悪かったの。ユズルが由季くんの心を守ろうとする気持ちはわかる」
 晴乃の瞳に涙の膜ができてく。だけど、晴乃はこぼれないように空を見上げる。
「でもね。由季くんは後から真実を知ったとき、もっと傷ついてしまうから」
 上を向いていた彼女は僕の顔へと視線を移し、見つめてくる。