「小春、楓くんのこと彼氏にしたいと思っているのなら諦めなさい」
家に着くなり、お母さんにそう告げられた。
楓くんのこと彼氏とかまだそういうこと考えたことはないけれど、他の誰よりも大事な人には変わりない。
でも、なんで、お母さんがこう言うのか分からない。
「どうして?」
疑問を持って尋ねると、お母さんは腰に手を当てて冷ややかな目を向けた。
「楓くんのお母さんは耳が聞こえないのよ。あなたまで苦労するの分かりきっていることでしょ」
「手話も覚えたし苦労なんかしないよ。それに、楓くんのおばさんはとても優しい人だよ。こんな私にも笑顔で接してくれるんだよ」
「だからって、これ以上、楓くんと仲良くなるのはやめなさい」
「この前、楓くんとこれからも仲良くしなさいってお母さん言ったじゃん」
これじゃあ、話が矛盾してるよ。
なのに、お母さんははっきりと告げた。
「それとこれとは別よ。付き合いたいなら別の人を選ぶこと」
「別の人って……?」
「ちゃんとした家庭で育った人を選ばない限り、お母さんは安心できない」
楓くんはちゃんとした家庭で育っていないと言いたい訳?
おばさんが耳が聞こえないことで、楓くんが辛い過去を抱えているのも知っている。
でも、だからって、耳が聞こえないからという理由で私たちを引き離されたくない。


