そんな私を察したのか楓くんが私のお母さんに向かって深々と頭を下げた。
「すみません……! 母は耳が聞こえないんです」
「そ、そう、なんだ……」
お母さんは、明らかに戸惑っているのが見てとれた。
ーー『本当は、家族以外の人でこのことは誰にも言ってないんだ』
未だ、私にしか教えていない彼の秘密。
唯花ちゃんにもまだ伝えていないと言っていた。
今の状況もあってか、楓くんは私のお母さんに伝えた。
返ってくる反応にビクビクして待っていると、眉間に皺をよせてお母さんは私の腕を掴んだ。
「小春、帰るわよ」
その声は低くて明らかに怒っているのが分かった。
スタスタと歩くお母さんに腕を引っ張られてしまう。
ちょっと……お母さん、待ってよ!
こんなの、おばさんと楓くんに失礼だよ!
後ろを振り返ってみると、おばさんはなにが起こったのか分からず呆気にとられていて、楓くんは悲しい表情をしていた。
「……ごめん」
声は聞こえなかったけど、口の動きで楓くんがそう言ったのが分かった。
お母さんに腕を引っ張られ、だんだんと楓くんと距離が遠のいてしまう。
ーー『みんなから偏見の目で見られては、母さんを傷つけるようなことにするのだけは絶対にイヤなんだ』
そんな楓くんの思いを壊してしまう羽目になってしまった。
おばさんを傷つけてしまった。
ごめん……。
ごめん、楓くん。
それに、ごめんなさい、おばさん。
曲がり角に差し掛かり、2人の姿が見えなくなっても心の中で何度も謝った。


