それは、しばらく経ったある日の出来事。

その日は休日で、楓くんの家で昼ご飯をご馳走になった。

凛ちゃんとは別れて、これからバイトに向かう楓くんと買い物に行くおばさんと一緒に歩きながら家へと向かっていた時のことだった。

「……小春?」

仕事帰りのお母さんとばったり出くわしたのは。

私の両親は共働きで曜日関係なく、土日や祝日もこうやって仕事が入っていて家にいないことが多い。

それで、今日は楓くんの家に快く招いてもらったというわけだ。

「どうも、こんにちは」

「こんにちは、楓くん」

楓くんとお母さんは挨拶を交わすけど、お母さんとおばさんは初対面だ。

「小春がいつもお世話になっております」

お母さんはおばさんに会釈をするなり丁寧に挨拶をした。

しかし……。

「……?」

耳が聞こえないおばさんは、なにを言ったのか分からずに確実に困ってる。

どうしよう。

お母さんにおばさんの耳のこと伝えてない。

どうにか話さなきゃと思うのに、声が出なくて、口をパクパクさせてしまう。