それから、凛ちゃんは「ランドセル、部屋に置いて来る!」と2階の方へと行ってしまったが、数分もしないうちに戻ってきて、私たちと同じくテーブルの前に腰を下ろした。
おばさんは凛ちゃんにもお茶を出したけど、なにか困った表情で楓くんの肩を軽く叩いた。
楓くんは、右手の人差し指を立てて左右に振った。
その手話は『よく使う手話だから』とこの前、楓くんが教えてくれたから知っている。
『なに?』
楓くんがそう手話で尋ねると、おばさんは手話でなにか楓くんにお願いしていた。
『お菓子の箱を取ってくれだって? 自分で取ればいいじゃん』
楓くんは、手話で会話しながらも声にだしてくれるから、話がなんとなく分かった。
おばさんは、またもや手を動かして楓くんに伝える。
「届かないって……まったく、人をこき使って」
楓くんは愚痴を言うけれど、今のは手話ではなく声だけだからおばさんには聞こえていない。
「ちょっと、行ってくる」
そう言って楓くんは立ち上がり、キッチンの方へと向かって行った。
身長が高い楓くんは、棚の上に置いてあるお菓子の箱を軽々と取っていた。
おばさんが『ありがとう』と楓くんに感謝している。
そんな様子を遠くから眺めていると、凛ちゃんが話しかけてくれた。
「ねぇねえ、小春姉ちゃんのお母さんは耳聞こえるの?」
その問いに、コクリと頷く。
すると、凛ちゃんはなぜか悲しい顔をした。


