「購買で俺の昼飯用にパン2つ買ってきてたんだけど、そのうち1つ星乃にあげるよ」
葉山くんは、手に持っている袋からパンを取り出すと私の前に見せた。
でも、そんなの受け取れないよ。
小さく首を横に振る。
「いらないの? でも、食べないとお腹空くだろ。ほら、早くどっちがいいか選んで」
そう促され、恐る恐るクリームパンを指差した。
「どうぞ」
私の手にクリームパンを渡してくれて、“ありがとう”と言う代わりにペコリと頭を下げた。
……って、私、さっきからものを指差して答えたり、首振ったり頷いたりができてる!
「こっちのメロンパンもだけど、それもめちゃくちゃうまいから」
そう言いながら葉山くんはメロンパンが入っている袋を開けていて、私も真似するかのようにクリームパンが入っている袋を開けた。
手のひらサイズのパンを小さな口に頬張る。
ふわふわでしっとりとしてる生地。
徐々に食べていくと、中に入っているカスタードクリームが見えてきた。
またぱくりと食べると、口の中でクリームが蕩ける。
なめらかでなんだか優しい味。
今まで食べてきたパンの中で、1番と言っていいほど美味しい。
いつもは弁当を食べていたけど、購買のパンがこんなにも美味しいなんて知らなかったよ。
……私って、なにを根拠に葉山くんとは所詮その程度なんて勝手に思っていたんだろう。
葉山くんの優しさに触れようともせず、スルーしてばかりで。
みんなの前で庇ってくれたことも、パンを分けてくれたことも、毎日、声をかけてくれたことも、私を気にかけてくれていたんだって、今になってようやく気付いた。


