それから、学校に行く準備をし終えると、玄関へと向かった。
靴を履いて、お母さんたちに振り返る。
「じゃあ……行ってきます」
自分を奮い立たせるかのように、バッグを持つ手にぎゅっと力を入れた。
「「いってらっしゃい!」」
お母さんたちに笑顔で見送ってもらい、目の前の扉を開けた。
久しぶりの外に、一歩足を踏み入れる。
その途端、喉がぎゅっと引き締まった。
……やっぱり、こうなるのは分かってた。
でも、頑張るって決めたから。
「おはよう、小春」
家の前で楓くんが待っていてくれた。
昨日の夜、楓くんに【明日、学校行く】とメッセージを送ったら、【分かった。じゃあ、朝、迎えに行く】と楓くんはそう返信してくれた。
それに、不登校中、ほぼ毎日楓くんは学校帰りに来てくれたのにも関わらず何度も拒否してしまったというのに、こうやって私に会いに来てくれる優しい楓くん。
そんな楓くんに、声がでなくても手話で挨拶を返したい。
「……っ……」
なのに、緘動の症状がでてしまい手を動かすことができなかった。
思わず俯く私に、楓くんは私の手を取った。
「行こう、小春」
顔を上げると、楓くんは優しい笑顔を私に向けていて胸がドキッとした。
その瞬間、忘れかけていた感情が一気に溢れ出した。
楓くんの手に触れているところが熱くなっていることも、胸がドキドキと高鳴っていることも。
この感情がなんなのか、もうとっくに分かっている。


