「それに、以前、楓くんのお母さんが家に来てくれたこと会ったでしょ? その時、耳が聞こえないお母さんにどう伝えればいいか分からずに困っていた時、代わりに小春が手話で伝えてくれたの凄くありがたかった。少しずつ成長していく小春の姿、逞しく見えたよ」
お母さんの言葉に嬉しくなって、ますます涙が止まらない。
視界が霞んでしまうくらいに。
「今度さ、お母さんに手話教えてくれないかしら? 外でも小春とお話ししたいから」
そう思ってくれただけでも嬉しいよ。
なのに、上手く言葉にならず、鼻をぐすんぐすんと啜ることしかできない。
「お母さんにとって、自慢の娘で、あなたのことが大切なの」
お母さんも泣いているのか、時々声が掠れてる。
それでも、必死に言葉を繋いで私に語りかけてくれる。
私の心に寄り添うかのように。
「学校が嫌なら行かなくてもいい。辞めてもいい。ただ、あなたが幸せな日々を送れているのならばお母さんはそれだけで嬉しいから。それ以外は、なにも望まないわ」
お母さん、もういいよ。
十分すぎるくらい伝わったよ。
……私、ずっと、現実から目を背けてきた。
だけど、こんな自分を変えるタイミングは今かもしれない。
立ち上がってドアノブに手をかけた。
この扉の先には、お母さんが待っている。
お父さんに、楓くんや唯花ちゃん。
それから、おばさんにおじさんに凛ちゃん。
こんな私でも優しくしてくれる人たちがいる。
でも、扉を開けなかったら、一生暗闇の中で独りぼっち。
希望や光もない、孤独な世界。
私は、どっちの世界で生きたいのだろう。
そう考えると、答えは1つしかない。


