先生が帰った途端、辺りは静かになった。

私はただただ涙を流していると、扉越しにお母さんに話しかけられた。

「小春、ごめんね。また辛い思いさせてしまって」

お母さん、謝らなくていいんだよ。

さっき、お母さんが助けてくれたの凄く嬉しかったんだよ。

伝えたいことがあるのに、それは全部涙に変わる。

「お母さんね、小春に謝らなくてはいけないことがたくさんあるの。場面緘黙症のことも、楓くんのお母さんのことも、小春の気持ちなに1つ分かってあげられなくてごめんなさい。小春の良いところを探すどころか、話さないことばかりずっと目を向けて、更に追い討ちをかけてしまったことを後悔してる。小春は、話せないことでいつも苦しんでいたというのに。それに気付けないなんて、お母さん失格よね」

……失格なんかじゃないよ。

お母さんは、私のお母さんだよ。

さっきまで先生の言葉をあんなに拒絶反応を示していたのに、今ではお母さんの言葉を聞こうと耳を傾けている。

「ほんと、楓くんと出会ってから、いろんなことを考えさせられたわ」

私も楓くんと出会って、いろんな変化があった。

こんな自分でもできることを知って、もっとたくさんのことに挑戦してみたいという気持ちが湧いたこと。

「小春は話すことが難しいのに、別の方法でクラスの子とコミュニケーションを取ろうとしているの知って嬉しかった。小春は小春のやり方で頑張っているんだって」

ボロボロに傷ついた心が、お母さんの優しい言葉で徐々に満たされていく。