「会いたくない」
楓くんにも迷惑かけているのならば、会わない方がいい。
それに、泣いている姿を見られたくない。
「……分かったわ」
お母さんは私の部屋を離れるなり、また玄関へと向かった。
耳をすませば聞こえてくる声。
「楓くん、いつもごめんなさいね……小春ったら、頑固で」
「いえ。きっと、小春さんには小春さんなりの思いがあると思うので」
私は、毎日、楓くんを遠ざけているというのに。
なんで、そういうこと言ってくれるの?
「楓くんは優しいのね。また後日来てくれるかしら?」
「分かりました。また来ます」
「ありがとね、楓くん」
しばらくして、ガチャリと玄関の扉が閉まった音がした。
……今の私には、楓くんに会う資格はない。
これでいいと思いながら、これで良くないと思う自分がいて、心の中で葛藤している。
閉め切っているカーテンを少し開けて、外を見た。
そこには、私の家から遠ざかっていく楓くんの後ろ姿。
でも、その姿はとても寂しそうに見えた。
……ごめん、楓くん。
とてつもない罪悪感と悲しみに襲われて、また涙がポロリと流れた。


