ーーピンポーン。

インターホンが鳴って、お母さんが玄関に行ったのが分かった。

わずかに喋り声が聞こえてくるけど、私には誰か来たか予想できている。

1分もしないうちに話し声はパタリと止まり、階段を登る足音が聞こえた。

そして、2階に上がるなり部屋をノックされた。

扉には鍵をずっとかけっぱなしにしているから、向こうから開けてくることはない。

「小春、今日も楓くんが来てくれたわよ」

扉越しに、お母さんの声。

学校に行かなくなって、ほぼ毎日のように楓くんが来てくれる。

時間的に、学校が終わってから来てくれたのだろう。

シフトが入っていない日や遅い時間帯からバイトが始まる時はこうやって私の家に尋ねてくれる。

なのに、私はクッションに顔を埋めながら、ドア越しにお母さんに言った。

「断って」

昨日もその前も同じ言葉。

「小春はそれでいいの? 本当は会いたいんじゃないの?」

お母さんの問いかけに、楓くんに会いたいという気持ちが喉まででかかったがぐっと堪えて、別の言葉を伝えた。