それから、どれくらい時間が経っただろう。
廊下の方からバタバタと足音が近付いてくるのが聞こえて、また先生が来たのかと身構えていると、予想外の声が降ってきた。
「小春!」
入ってきたのは、息を切らした楓くんだった。
「いつになっても小春が戻って来ないから、心配になって有野と探してたんだよ」
走ってきたのか楓くんの額には薄っすらと汗が見えた。
「小春、どうした? 先生になんか言われた?」
「……っ……」
口を開けてみるが声が出ない。
今、ここには私と楓くんしかいないのに。
やっぱり、学校だから声が出ないのか……。
「手話でもいいから俺に伝えて」
楓くんがそう言ってくれて、手話をしようと頑張ってみる。
なのに、なぜか手が1ミリも動かない。
……あれ?
私、どうしちゃったんだろう。
体が全然言うことを聞いてくれない。
楓くんに先生との出来事を伝えたいのに、物凄く緊張して体が強張ってしまう。


