すると、楓くんは1歩近づいて、手を伸ばしては私の腕を掴んだ。

触れられている場所に意識してしまう。

……楓くん?

手話をしようにも腕を取られては手話ができない。

彼に座るよう促され、その場にしゃがみ込むと同時に楓くんも腰を下ろした。

座ったことによって、たくさんのきゅうりを支えている網状のネットや支柱よりも低い位置となって緑の葉っぱたちに覆われているため誰にも気付かれていない。

「小春」

徐々に楓くんの顔が近づいてきて、思わず至近距離。

バクバクと速いぐらい心臓が高鳴る。

えっ、もしかして、これって……。

恋愛ドラマや少女漫画なんかにでてくるあのシーン?

とある考えに至っては、これから来るであろう行為に目を閉じて待っていると……。

「土ついてる」

えっ……?

その言葉に驚いて目を開けると、楓くんは私の腕を握ったまま、もう片方の手を私の頬に当てた。

いつの間に、顔についていたのだろう。

その土を拭ってくれた楓くん。

……って、い、今、私、なにを期待してた?

き、キスだなんて……。

妄想してた私が恥ずかしい。

顔が真っ赤に染まったのは今度は私のほうで、バクバクがドキドキに変わって心臓がいくつあっても足りないくらい。

いつの間にか手は離れていて、楓くんは何事もなかったかのように元の場所に戻っては再び作業をしてたけど、その場に取り残された私は作業に取り掛かるまで少々時間がかかった。