「学年とも協議しましたが、修学旅行および全国大会については、生徒ご家庭でお話し合いいただき、それぞれ希望制で出席していただくこととなります。」
9月15日(月)夜。茶色の長机が並んだ無機質な会議室に、合唱部の2年生6名とその保護者が集められた。
ホワイトボード前には顧問の藤井と2学年主任でC組担任の木村が座っている。会は主に藤井が説明をして、木村が補足説明をするという流れで進んだ。
「すみません。うちの子のパートは人数が少ないと聞いていますが、修学旅行に行く場合、部員からの理解は得られているのでしょうか?」
間宮奏の父が質問をした。間宮はソプラノ部担当で、自由曲では2人しかいない高音部のパートを担当している。
「はい。その点につきましては、1.3年生からの理解も得られていますのでご安心ください。必要に応じてパート替えも検討しています。」
なにしろ2年生は6人中4人がソプラノだ。3パートの課題曲もソプラノは全員で6人のため、4人とも抜けるとなると、バランスが取れなくなってしまう。
「修学旅行の費用はどうなりますか? すでに25万、積み立てていると思うのですが。」
「その点につきましては、申し訳ありませんがキャンセル料が発生します。が、事情が事情なので旅行会社に配慮をお願いして、今週中にご連絡いただけると最低限の10%、額にして2万5,000円のキャンセル料におさえてもらえます。あ、この配慮は合唱部限定ですので、他の生徒は規定通り明日から30%かかって参りますので、他言しないようお願いします。」
同じくソプラノの加藤真璃亜の母の質問に、木村が答える。あくまでも「合唱部限定」の特別配慮であることを強調している。
「木村先生、今週中って具体的にはいつまで?」
「金曜日です。金曜日の17時に旅行会社へ連絡することになっています。」
メゾの東里帆の母が発言。また木村が答える。
「すみません、万が一ですが、金曜日までに決心が付かなかった場合ってどうなります?」
ソプラノ菊地愛理の父が酸っぱい顔をして聞く。
「修学旅行については、特別な配慮ができかねますので、金曜日を過ぎたら規定の30%、50%とキャンセル料は上がっていくことになります。」
「部活のほうですが、こちらも早急に遠征旅行を取りますので、なるべくキャンセル料がかからないようにはしたいですが、今のところはなんとも…。」
木村管轄の修学旅行はあとは行くだけくらい旅程ができあがっているが、藤井管轄の遠征旅行はこれからだ。
「あの、ちょっといいですか?」
音羽ユメの父が申し訳なさそうに手を挙げる。
「そもそもなんですが、なんでこの日程になったんですかね? 大会があることは決まっていたでしょうし、この時期に修学旅行って他の部活の大会は配慮されてるからですよね? 大会日程を避けることは出来なかったのでしょうか?」
藤井は苦い顔をしてから木村に簡単に合図をして答えた。
「その点につきましては、ただただ申し訳ないです。修学旅行の日程を決めた去年の春はまだ弱小部活でして、全国など行けるはずがないという状況だったもので…。」
「学年としてもそこは申し訳ありません。もちろん合唱部から全国大会がこの時期にあるという報告もありましたが、全国に行く可能性と渡航日程を天秤にかけて、こうなってしまいました。」
木村もクラスでは見せない難しい顔をして長々と話している。
「じゃあ時間もアレなんで、最後に一言。」
鈴村カノンの父が手を挙げた。
「これは先生にもみんなにもお願いなんですが、これをきっかけにバラバラにならないで欲しいなぁと。全員が自分の意思で決めて欲しいなぁと思います。きっと修学旅行に行きたい子も全国に行きたい子もいる。それが悪いことではないから、どうかバラバラにならないで。ね、うちの子部長で困っちゃうから。」
9月15日(月)夜。茶色の長机が並んだ無機質な会議室に、合唱部の2年生6名とその保護者が集められた。
ホワイトボード前には顧問の藤井と2学年主任でC組担任の木村が座っている。会は主に藤井が説明をして、木村が補足説明をするという流れで進んだ。
「すみません。うちの子のパートは人数が少ないと聞いていますが、修学旅行に行く場合、部員からの理解は得られているのでしょうか?」
間宮奏の父が質問をした。間宮はソプラノ部担当で、自由曲では2人しかいない高音部のパートを担当している。
「はい。その点につきましては、1.3年生からの理解も得られていますのでご安心ください。必要に応じてパート替えも検討しています。」
なにしろ2年生は6人中4人がソプラノだ。3パートの課題曲もソプラノは全員で6人のため、4人とも抜けるとなると、バランスが取れなくなってしまう。
「修学旅行の費用はどうなりますか? すでに25万、積み立てていると思うのですが。」
「その点につきましては、申し訳ありませんがキャンセル料が発生します。が、事情が事情なので旅行会社に配慮をお願いして、今週中にご連絡いただけると最低限の10%、額にして2万5,000円のキャンセル料におさえてもらえます。あ、この配慮は合唱部限定ですので、他の生徒は規定通り明日から30%かかって参りますので、他言しないようお願いします。」
同じくソプラノの加藤真璃亜の母の質問に、木村が答える。あくまでも「合唱部限定」の特別配慮であることを強調している。
「木村先生、今週中って具体的にはいつまで?」
「金曜日です。金曜日の17時に旅行会社へ連絡することになっています。」
メゾの東里帆の母が発言。また木村が答える。
「すみません、万が一ですが、金曜日までに決心が付かなかった場合ってどうなります?」
ソプラノ菊地愛理の父が酸っぱい顔をして聞く。
「修学旅行については、特別な配慮ができかねますので、金曜日を過ぎたら規定の30%、50%とキャンセル料は上がっていくことになります。」
「部活のほうですが、こちらも早急に遠征旅行を取りますので、なるべくキャンセル料がかからないようにはしたいですが、今のところはなんとも…。」
木村管轄の修学旅行はあとは行くだけくらい旅程ができあがっているが、藤井管轄の遠征旅行はこれからだ。
「あの、ちょっといいですか?」
音羽ユメの父が申し訳なさそうに手を挙げる。
「そもそもなんですが、なんでこの日程になったんですかね? 大会があることは決まっていたでしょうし、この時期に修学旅行って他の部活の大会は配慮されてるからですよね? 大会日程を避けることは出来なかったのでしょうか?」
藤井は苦い顔をしてから木村に簡単に合図をして答えた。
「その点につきましては、ただただ申し訳ないです。修学旅行の日程を決めた去年の春はまだ弱小部活でして、全国など行けるはずがないという状況だったもので…。」
「学年としてもそこは申し訳ありません。もちろん合唱部から全国大会がこの時期にあるという報告もありましたが、全国に行く可能性と渡航日程を天秤にかけて、こうなってしまいました。」
木村もクラスでは見せない難しい顔をして長々と話している。
「じゃあ時間もアレなんで、最後に一言。」
鈴村カノンの父が手を挙げた。
「これは先生にもみんなにもお願いなんですが、これをきっかけにバラバラにならないで欲しいなぁと。全員が自分の意思で決めて欲しいなぁと思います。きっと修学旅行に行きたい子も全国に行きたい子もいる。それが悪いことではないから、どうかバラバラにならないで。ね、うちの子部長で困っちゃうから。」



