ようやく体を離した頃には、夕日が沈んで、私の心とは裏腹に街は眩しいくらい幾千もの光が輝きを放っていた。

「綺麗だね」

「うん、とても綺麗だね。碧くん」

今もなお頬を伝う涙はそのままに碧くんと手を繋いで美しい夜景を眺める。

先程までオレンジ色に染まっていた空が、黒いに近いミッドナイトブルーに変わっていて星がぽつぽつと浮かび始めていた。

もう、すっかり夜だ。

薄暗くて足元が分かりにくくなるため夜の山は危ない。

真っ暗になる前に、そろそろ帰らないと。

幻想的な夜景から碧くんの方へと体を向けて、彼と向き合う。

「碧くん。今までありがとう。私のこと好きになってくれてありがとう」

どんなに伝えても伝えきれないほど碧くんにはたくさん感謝している。

「最後はこんな形になってしまったけど、碧くんといて、私、とっても幸せだったよ」

「俺のほうこそ、とても幸せだったよ」

「ありがとう、碧くん。私、アメリカで上手くやっていくから。碧くんは日本で元気で暮らしていて」

「……うん」

「私のこと忘れて、新しい恋していいよ」

明るくそう伝えると、碧くんは俯いて静かに首を横に振った。

「結芽を忘れたくない」

今も繋いでいる手にギュッと力が込められた。

彼の思いがひしひしと伝わってくる。

だけど、私は握り返すことはせず、言葉で伝える。

「いつまでも私のこと引き摺ったらダメだよ。いつか、碧くんのこと好きになってくれる人が現れるから、どうかその人の気持ちに向き合って欲しい」

私のお願いに少し間を置いて「分かった」と彼は頷いた。

……それでいい。

本当は良くないけど、彼の未来のため。

そう自分に言い聞かせるも、涙が止まらない。

彼の目からも涙が頬を伝っている。

離れたくない。

別れたくない。

だけど、時間は止まってくれない。

夜道は危ないから家まで送ると言ってくれたけれど断った。

彼の優しさに甘えたら、それこそいつまで経っても別れられなくなってしまう。

「ねぇ、碧くん。最後は笑顔でお別れしようよ」

「……うん」

繋いでいる手とは反対の手でそっと涙を拭った私とは違い、袖でゴシゴシと涙を拭った碧くんは切なさが残りながらもとびっきりの笑顔を向けてくれた。

大好きな碧くんのその笑顔を目に焼き付ける。

彼の姿を見るのも、彼の声を聴けるのもこれで最後。

もう会うことはできない。

だけど、前に進むしかないんだ。

別々の道へと歩いていくしかないんだ。

「バイバイ、碧くん」

繋いでいる手をそっと離し、彼に手を振って別れを告げると、彼は小さく手を振り返してくれた。

「……バイバイ、結芽。元気で」

「碧くんの方こそ、いつまでも元気でいてね」

「うん」

「じゃあ、もう行くね」

彼が頷いたのを確認して、ゆっくりと踵を返した。

碧くんの方を振り返ることはせず、前を向いて一歩また一歩と歩き出す。