「なぁ、結芽。本当にアメリカに行くの?」

しばらくの沈黙のあと、碧くんがゆっくりと口を開いた。

今もなお半信半疑だったのかそう尋ねた碧くん。

「うん。行くよ。明日には」

「結芽がアメリカに行くの不安しかないんだけど。慣れない土地な上、言葉の壁っていうものあるじゃん。結芽って英語苦手だよね?」

「うん、まぁ。苦手だけど、アメリカに住み始めたら徐々に話せるようになっていくんじゃない?」

碧くんがアメリカに行くわけでもないのに私のことで不安でいっぱいの顔になってて、アメリカに行く私のほうが楽観的。

「でも、やっぱり心配だし、俺も一緒に行く」

「なに言ってるの? 私たち、まだ高校生じゃん。こればかりはどうすることもできないよ」

「じゃあ、高校卒業したらアメリカに行く。結芽に会いに行くから。あと2年待っててくれない?」

「待てない」

私があまりにもきっぱりと言い切るものだから、碧くんは目を見開いて驚きを隠せないでいる。

「……結芽?」

やっとの思いで声に出して私の名前を呼んだ碧くんに私は冷たく言い放った。

「私、遠距離恋愛とかムリ。だから、今日で終わりにしよう」

「やだ。そんなのやだ! 結芽と離れたくない!」

選択肢が“別れる”一択しかない私に碧くんはまるで子供みたいに駄々をこねった。

「結芽がアメリカに行っても毎日メールするし、電話だってする。これから2年頑張ろう。きっとすぐに時が経つよ」

「ムリだよ、2年なんて。すぐじゃない」

「でも、頑張ってみようよ。俺、明日、空港で見送るし、夏休みや冬休みの時には結芽に会いに行くから」

どうにかしてでも別れたくないと焦る碧くんに、「会いに来ないで!」と気付けば自分でも驚くほどの声を出していた。

山に大きくこだまする自分の声。

……初めて碧くんに怒りをぶつけてしまった。

これまで1回もケンカしたことなかったのに。

恐る恐る碧くんの様子を窺うと、びっくりのあまり表情が固まっている。

……とても心が痛い。

もう感情的にならないように深呼吸をして心をなんとか落ち着かせてはゆっくりと喋った。

「ごめん、碧くん。見送りも大丈夫だから。私たちは、もうここでお別れしよう」

もう何度目か分からない別れを切り出すと、私と同じように碧くんの目には涙が溜まっていた。

「……分かった」

本当は分かりたくないって表情だけど、なんとか頷いてくれた。

「ごめん、ごめんね、碧くん。自分勝手で本当にごめんなさい」

何度謝っても謝りきれない気持ちでいっぱいになる。

気を緩めたら涙がでてしまいそう。

でも、泣かない。

碧くんの前では泣きたくない。

なのに……。