「結芽、どうして別れたいの?」

碧くんに理由を聞かれて、私が別れようと決めたことを伝える。

「親の転勤で海外に行くことになったの」

そう伝えると、碧くんはすんなりこの事実を受け入れることができず瞬きを数回しては驚きの表情を浮かべた。

「え? いつから?」

「明日」

「えぇ⁉︎ 急すぎるよ」

私がいきなり海外に行くと言ったものだから頭を抱える碧くんに「ずっと黙っててごめんなさい」と深く頭を下げた。

「場所は? 国はどこ?」

「……アメリカ」

「遠い、遠すぎる」

日本とアメリカでは13時間以上もの時差があり、あまりにもかけ離れた場所。

碧くんが不安を漏らすのも無理もない。

「日本に戻ってくる予定は?」

また一緒に過ごせる日が来るのではと僅かな希望を抱いた彼に、再度首を横に振った。

「ごめん、戻らないの。ずっと向こうで暮らすことになってる。だから、学校、中退することにしたの。もう碧くんと一緒に登校できないし、一緒に卒業もできない」

もう私たちが一緒にいられる未来はないことを告げると、碧くんは項垂れた。

「そんなぁ……」

今までなにをするにも一緒で、2人じゃないとイヤだった。

どこかへお出かけに行くのも、美味しい物を食べる時も。

彼と味の感想を伝え合いたいと思うし、彼と一緒なら苦手なお化け屋敷でさえも楽しめそうな気さえした。

いつも私に優しくしてくれて、「好きだよ」と素直な気持ちを伝えてくれて、どんなに辛いことがあっても碧くんが側にいてくれるだけで安心へと変わる。

私にとって碧くんは特別な存在で、最高の彼氏。

でも、その関係は終わりにしなければならない。

「急なことでごめんね。でも、碧くんと一緒にいれるの今日までなの。だから、碧くんと最後の思い出を作りたかった」

長崎ランタンフィスティバルの時に来た中華街にもう1度来たかった。

もう2度と食べることはないだろう長崎名物を彼と一緒に堪能したかった。

眼鏡橋で碧くんと最後のツーショットを撮りたかった。

そしてラストに生まれ育った長崎の街を見渡したかった。

私はもう、明日にはこの街から出て行くから。

「……最後って言わないでよ」

今日のお出かけをするにあたっての本当の目的を碧くんに伝えなかった私が悪いけど、なにも知らない碧くんだったからこそ思いっきり楽しむことができた。

フサフサと風に靡く木の音が聞こえるほど、私たちは静かになった。

夕焼けに染まっている街の景色を見る余裕すらなく、ただ時間だけが過ぎていく。