「碧くん。私と別れてほしい」

「え?」

案の定、ポカンと口を開けて碧くんは固まっている。

「今日で終わりにしよう」

思考が全く追いついていない彼にとどめを刺した。

「え、結芽、ちょっと待って」

ようやく言葉を発した碧くんだがテンパってるのは丸わかりで、「別れるってどういうこと?」と聞いてくる。

「そのままの意味だよ。碧くんは私の彼氏じゃなくなって、私は碧くんの彼女じゃなくなるの」

心を痛めながらも碧くんの目をしっかりと見てははっきりと答える。

「そんなのやだ。別れたくない。結芽とずっと一緒にいたい」

碧くんはピュアな心を持っているからこそ、疑うことを知らず言葉をそのまま受け取っては悲しんだ表情になる。

「碧くん、ごめん。もう一緒にいられないの。だから、今日でおしまいにしよう」

もう1度、別れを切り出すと、碧くんはなにかを閃いたように「あ!」と大きな声を出した。

「結芽、また嘘をついてるんでしょ。だって、今日がエイプリルフールだから」

登山中のことを思い出したのか碧くんは明るい表情になって笑った。

でも、その目は笑えてなくて、どことなく笑顔が引き攣っているようにも見えた。

どうか嘘であってほしいと願う彼に、私は静かに首を横に振った。

「ううん。これは嘘なんかじゃないよ」

本当のことを伝えると、みるみるうちに笑みが消え、まるで捨てられた子犬のように目をうるうるさせてこちらを見る。

「……結芽」

時折吹く春風に飛ばされてしまいそうなほどか細い声で私の名前をそっと口にした。

初めて聞いた碧くんの消え入りそうな声と、とてもショックを受けては悲しんでいる彼の表情を見ては、彼女でありながら碧くんの笑顔を崩してしまったことに罪悪感が押し寄せる。

心が痛くて、胸が張り裂けそう。

「ごめんね、碧くん……」

涙が出そうになるのをグッと堪えるも声が震えた。

『冗談だよ』と笑いに変えることができたら、これからも私たちは一緒にいられるのに、そんな明るい未来はやって来ない。

現実はそんなに甘くない。