「うわー! 結芽、見て! めっちゃいい眺め!」

「ほんとだ!」

それから10分かかり、やっとの思いで山頂に辿り着いた私たちは目の前に広がる美しい光景に目を奪われた。

綺麗という言葉だけじゃ言い表せないくらい最高な眺め。

薄暗い夕暮れ時で、行き交う車からヘッドライドが点灯し、ところどころ電気がつき始める住宅街。

数時間前までいた中華街も小さく見え、違う方向へ目を向けると白を基調とした照明の女神大橋(めがみおおはし)が分かった。

夜になると、もっとたくさんの光に包まれ美しい夜景が楽しめると思うけれど、この時間でも十分満足でき、尚且つ春の季節とあって満開の桜が街をより一層明るくさせていて、魅入ってしまうくらいとても素敵な景色。

しかも、遠くの海に沈み始める夕日によって空がオレンジ色に染まり、幻想的な眺めに釘付けになる。

昔、家族で来た時は眠たい目を擦りながら山を登っては朝日を見たことがある。

明るい光に包まれた街を眺めながら1日が始まる瞬間を見た時、眠気を忘れるくらいとても感動したけれど、夕焼けも絶好の眺めでこの瞬間を覚えておこうと目に焼き付ける。

こんなにいい場所なのに、周りには誰1人いない。

地元の人でもあまり知られていない隠れスポット。

碧くんは来たことがないみたいでいつになくテンションが上がっている。

そんな彼を見て、私も笑顔になる。

「結芽、こんなにいい場所に連れて来てくれてありがとう!」

碧くんの笑顔は夕日より眩しくて、それにこんな素敵な言葉を伝えてくれる。

手料理を振る舞った時も、美味しいカフェを見つけた時も、面白い本を貸した時も、必ずと言っていいほどお礼を言ってくれる。

そんな彼のことが大好きで、とても愛おしい。

でも、今日で……。

「結芽?」

不意に悲しい気持ちになって俯いていると、彼が顔を覗きこんだ。

「どうした? 暗い顔して」

さっきの笑顔とは打って変わって、心配な眼差しを向けている。

「碧くん……」

伝えるのは今しかない。

このチャンスを逃したら、もう次はない。

「あのね、碧くん。大事な話があるの」

覚悟を決め、いつになく真剣なトーンで話しかけると不穏な空気を察知したのか、碧くんは神妙な面持ちで固唾を飲んで私を見つめる。

今から、私は優しい君の心を傷付ける。

たとえ、怒られたっていい。

嫌われてもいい。

私は、君に伝えなければいけない事がある。

意を決して口にした。