「結芽ーーーー!」

突然、叫び声が聞こえて、身体がピクリと反応した。

後を追ってきたのかと恐る恐る後ろを振り返ってみたが、そこには誰もいなかった。

「結芽ーーーーーー‼︎」

でも、確かに聞こえる。

碧くんの声が。

私を求める声が。

木の枝の隙間から少し遠くなった山頂が見えた。

夕日が沈んで辺りは薄暗いが、人影がぼんやりと見える。

山のてっぺんには、碧くんしかいない。

暗くて彼がどんな表情しているのかははっきり見えないけれど、碧くんが泣き叫んでいるのは分かる。

この1年一緒にいたから。

碧くんの彼女だから。

彼女だったから。

だからこそ、碧くんの気持ちが痛いほど分かる。

「結芽ーー!」

普段は、とても優しくて温厚な性格の彼。

だけど、今、感情をぐちゃぐちゃにさせて何度も何度も叫んでいる。

その声には悲しみと苦しみを含んでいるのは明らかで胸がとても締め付けられた。

「結芽ーーーー! 結芽ーーーーーー!」

碧くんの声が山に反響して私の耳に届くたび、会いたい気持ちが増す。

でも、もう会ったらダメ。

だって、私は……。