すっかり暗くなった山道。
夜風がザアザアと木を揺らす。
碧くんと山を登った時とは違って、不気味な雰囲気が漂う。
重たい足取りで山を下るけれど、声にならない嗚咽が漏れる。
「……っ……」
さっき涙を拭ったのに、止めどなく溢れてくる。
……ごめん、碧くん。
全部、嘘なの。
親の転勤で明日にはアメリカに行くことも。
学校を中退することにしたことも。
遠距離恋愛がイヤなことも。
全部、全部、嘘なんだ。
だけど、どうしても、碧くんと別れなきゃいけなかった。
だって、私……。
「……ハァ……ハァ……ッ」
突然、過呼吸に襲われてその場にしゃがみ込んだ。
……苦しい。
これで4回目だ。
ボロボロな身体に鞭打って街を散策したり、山を登ったりしたせいで身体が悲鳴を上げている。
なんとか呼吸を整えようと左手を心臓付近に押さえながら、右手でバッグの中を探る。
……あった。
取り出したポーチのファスナーを開けると、大量の薬が現した。
その中から、薬を3種類取り出すも過呼吸のあまり手が震える。
おまけに、上手く力が入らずペットボトルの蓋を開けるのも手こずってしまうが、なんとか薬を喉に流し込むことができた。
なのに、数分経ってもちっとも治らない。
「……ハァ……ハァ」
呼吸が上手くできない。
こんな時、登山中のように碧くんが側にいてくれたらと思うけど、別れを告げた手前もう会うことはできない。
これから1人で耐え抜いていくしかないんだ。
寂しくて辛い孤独な日々を耐えなければいけないんだ。


