「花の効能や嗜好品としての応用の話もですが、花言葉というものにとても興味をそそられました! 花に意味を込める繊細で洒落た心を感じます。ニンゲンは無機物に対して心をこめる生き物なんですね」
なんとか初授業を終えた。リンくんは嬉しそうに感想を語ってくれて、簡単な知識に興味を示してくれることが嬉しい。
「カルタ先生の授業、こんなに楽しいのに僕以外が来ないなんて少し残念です……」
「いや、仕方ないですよ。みんな受けたい授業を優先して欲しいですし」
「でも、生徒が誰もいないと先生も悲しいですよね……」
「あはは、それはそうですね」
「じゃあ、約束しませんか?」
「約束?」
「僕、先生の授業に毎回出ますよ。絶対に一人は居る! ってわかっていたら、安心しませんか? 先生の授業に毎回出席するって約束しましょうか?」
「えっと……」
リンくんは優しい顔でニコッと笑った。
「……ううん、約束しなくていいよ。リンくんだって、受けたい時に受けてください。ここは皆さんのための学習の場ですから」
「……そうですか。わかりました。じゃあ来たい時に来ますね」
その時、教室の扉を誰かが開けた。
「あ……っと、その、」
彼は僕とリンくんを交互に見て、少し躊躇ってから言った。
「おい、リン。テメェ授業終わってんならさっさと来いよ!」
「わ、ごめんね、ゼノくん! カルタ先生、それじゃあまた!」
「う、うん……」
ゼノと呼ばれた彼。顔の左半分が黒いあざで覆われていた。怪我……かな。それとも彼の種族が関係しているのだろうか。
しばらく教室でぼーっとしていたら、クチナシ先生が様子を見に来てくれた。初授業だから疲れただろう、と飲み物とお菓子まで持参して、だ。本当に優しい人だな……。
「カルタ先生……、大丈夫、だった? 困ったこととか……」
「はい、大丈夫でした! ……あ、そうだ。クチナシ先生、よかったらこれ……」
クチナシの花を渡すとクチナシ先生は首を傾げた。
「これ、なに? ……初めて見る……」
「昨日話したクチナシの花です。先生の名前と同じで、それから瞳の色をした花」
「…………くれるの?」
「あっ、その……迷惑じゃなかったら……」
「……ありがとう。うれしい……。君は、優しいねぇ……」
「そ、そんな……。僕に気を遣ってお菓子や飲み物を持ってきてくださるクチナシ先生の方が優しいです」
「君みたいな、若い子が……頑張ってるから、気にかけるのは当然だよ……」
「あはは……若いなんて久しぶりに言われたので嬉しいですね……」
長命の種族もいるらしいから、すっかりアラサーの僕でも若い部類に入るのかもしれない。なんだか少し嬉しい。
「……そうだ、言い忘れてた」
「はい?」
「……注意事項……。必ず、守って欲しいことがある」
「……必ず……」
「約束を、しないこと」
「え?」
「絶対、誰とも約束をしないで……。種族を、明かさないようにしてる子、たくさんいる。名簿を見ればわかる、けど……、カルタ先生はまだ、生徒の顔も名前も、覚えられてないでしょ……? だから、……誰とも約束しないで」
「それは、なんで……?」
「約束の相手が、魔族だと……、約束が契約になる、から。どんな小さな、小さな約束でも、交わすと、契約として……相手の望む代償を負わされる……。……やっぱり、知らなかったんだね。魔族なら、みんな知ってるこのルールを……」
「……! それは、えっと……」
「……魔族は、誰でも知ってる。それなのに知らないなんて……」
「あ、あの……っ、僕は……」
「……一体どれだけ……酷い環境で……、育ってきたんだ……。こんなことも、教えてもらっていないなんて……。カルタ先生、大丈夫、だよ……。俺が、全部教えるからね……」
「あ、あはは……。ありがとうございます……」
ふう、と息を吐いた。クチナシ先生の勘違いと優しさのおかげでなんとかバレずに済みそうだ。それにしても……。
『じゃあ、約束しませんか?』
『僕、先生の授業に毎回出ますよ。絶対に一人は居る! ってわかっていたら、安心しませんか? 先生の授業に毎回出席するって約束しましょうか?』
……ううん、まさかね。
「ゼノくん、ゼノくん!」
「んだよ、リン。うるせえな……何度も名前呼ばなくても聞こえてるんだよクソが。食堂ではしゃぐんじゃねえよ」
「ごめんね、つい……」
「言いたいことがあるならさっさと言えカス。昼休みが終わったら俺は授業あるんだよ」
「うん! あのね、今度一緒にニンゲン生物学受けない?」
「はあ? なんでだよ。俺が学びたいのは__」
「ゼノくん、お願い。きっと楽しいよ。ねっ?」
「……はあ。わかったよ。受ければいいんだろ」
「ふふ、楽しみだなぁ」
なんとか初授業を終えた。リンくんは嬉しそうに感想を語ってくれて、簡単な知識に興味を示してくれることが嬉しい。
「カルタ先生の授業、こんなに楽しいのに僕以外が来ないなんて少し残念です……」
「いや、仕方ないですよ。みんな受けたい授業を優先して欲しいですし」
「でも、生徒が誰もいないと先生も悲しいですよね……」
「あはは、それはそうですね」
「じゃあ、約束しませんか?」
「約束?」
「僕、先生の授業に毎回出ますよ。絶対に一人は居る! ってわかっていたら、安心しませんか? 先生の授業に毎回出席するって約束しましょうか?」
「えっと……」
リンくんは優しい顔でニコッと笑った。
「……ううん、約束しなくていいよ。リンくんだって、受けたい時に受けてください。ここは皆さんのための学習の場ですから」
「……そうですか。わかりました。じゃあ来たい時に来ますね」
その時、教室の扉を誰かが開けた。
「あ……っと、その、」
彼は僕とリンくんを交互に見て、少し躊躇ってから言った。
「おい、リン。テメェ授業終わってんならさっさと来いよ!」
「わ、ごめんね、ゼノくん! カルタ先生、それじゃあまた!」
「う、うん……」
ゼノと呼ばれた彼。顔の左半分が黒いあざで覆われていた。怪我……かな。それとも彼の種族が関係しているのだろうか。
しばらく教室でぼーっとしていたら、クチナシ先生が様子を見に来てくれた。初授業だから疲れただろう、と飲み物とお菓子まで持参して、だ。本当に優しい人だな……。
「カルタ先生……、大丈夫、だった? 困ったこととか……」
「はい、大丈夫でした! ……あ、そうだ。クチナシ先生、よかったらこれ……」
クチナシの花を渡すとクチナシ先生は首を傾げた。
「これ、なに? ……初めて見る……」
「昨日話したクチナシの花です。先生の名前と同じで、それから瞳の色をした花」
「…………くれるの?」
「あっ、その……迷惑じゃなかったら……」
「……ありがとう。うれしい……。君は、優しいねぇ……」
「そ、そんな……。僕に気を遣ってお菓子や飲み物を持ってきてくださるクチナシ先生の方が優しいです」
「君みたいな、若い子が……頑張ってるから、気にかけるのは当然だよ……」
「あはは……若いなんて久しぶりに言われたので嬉しいですね……」
長命の種族もいるらしいから、すっかりアラサーの僕でも若い部類に入るのかもしれない。なんだか少し嬉しい。
「……そうだ、言い忘れてた」
「はい?」
「……注意事項……。必ず、守って欲しいことがある」
「……必ず……」
「約束を、しないこと」
「え?」
「絶対、誰とも約束をしないで……。種族を、明かさないようにしてる子、たくさんいる。名簿を見ればわかる、けど……、カルタ先生はまだ、生徒の顔も名前も、覚えられてないでしょ……? だから、……誰とも約束しないで」
「それは、なんで……?」
「約束の相手が、魔族だと……、約束が契約になる、から。どんな小さな、小さな約束でも、交わすと、契約として……相手の望む代償を負わされる……。……やっぱり、知らなかったんだね。魔族なら、みんな知ってるこのルールを……」
「……! それは、えっと……」
「……魔族は、誰でも知ってる。それなのに知らないなんて……」
「あ、あの……っ、僕は……」
「……一体どれだけ……酷い環境で……、育ってきたんだ……。こんなことも、教えてもらっていないなんて……。カルタ先生、大丈夫、だよ……。俺が、全部教えるからね……」
「あ、あはは……。ありがとうございます……」
ふう、と息を吐いた。クチナシ先生の勘違いと優しさのおかげでなんとかバレずに済みそうだ。それにしても……。
『じゃあ、約束しませんか?』
『僕、先生の授業に毎回出ますよ。絶対に一人は居る! ってわかっていたら、安心しませんか? 先生の授業に毎回出席するって約束しましょうか?』
……ううん、まさかね。
「ゼノくん、ゼノくん!」
「んだよ、リン。うるせえな……何度も名前呼ばなくても聞こえてるんだよクソが。食堂ではしゃぐんじゃねえよ」
「ごめんね、つい……」
「言いたいことがあるならさっさと言えカス。昼休みが終わったら俺は授業あるんだよ」
「うん! あのね、今度一緒にニンゲン生物学受けない?」
「はあ? なんでだよ。俺が学びたいのは__」
「ゼノくん、お願い。きっと楽しいよ。ねっ?」
「……はあ。わかったよ。受ければいいんだろ」
「ふふ、楽しみだなぁ」

