それで破れたお尻を見られないように、壁に向けて歩いていたのか。

「では、僕はこれで。
終わったら連絡してください」

「ああ。
帰りも頼む」

ひとしきり笑い終わったあと、敬礼をして菰野さんは出ていった。

「しまった。
菰野に茶を淹れてくるように頼めばよかった」

苦々しげに旦那様が顔を顰める。

「あの。
私が淹れてきましょうか」

誰かに聞けば、水屋の場所くらい教えてくれるだろう。

「いや、いい。
ここは竜蔵のような魑魅魍魎が跋扈しておるからな。
涼音など簡単に喰われてしまう」

両手を上に上げ、旦那様が襲いかかる真似をする。

「お戯れを」

それがなんだかおかしくてつい、くすくすと笑ってしまった。

「おっ、笑ったな」

私の笑顔を見て、旦那様が嬉しそうになる。

「信じていないな、喰らってしまおうか」

さらに旦那様がふざけてくる。
その瞬間、ドアが開いた。

「あー、なんだか楽しそうなところに悪いが、入ってもいいかな」

若い軍人を連れた年配の男性ににっこりと笑われ、顔から火を噴く思いがした。