しかしすぐに、肩を掴んで止められた。

「上官にその態度はなんだぁ?」

不快そうに中尉の片眉と語尾が上がっていく。
けれど菰野さんは掴まれた肩を、汚らわしそうに払った。

「上官だというのなら、それに見あう品位を見せてくれませんかねぇ」

菰野さんが中尉に見下すような視線を送った瞬間、すぐ目の前で噴き出す音がした。
そっとうかがうと旦那様の肩が細かく震えている。
しかも必死に口を開くのを堪えているのか、右手は口もとに当て、左手はお腹を押さえていた。
さらに「最高」
などと小さく呟く声も聞こえる。

「由緒ある綱木家長男の俺に、品位がないとでも言いたいのかっ!」

中尉の手が菰野さんの胸ぐらを掴み上げる。
しかし菰野さんはそれを冷めた目で見て、はぁっと面倒臭そうにため息をついただけだった。

「こういうことをするから、品位がないと言われるんですよ」

「なんだとっ!」

今にも中尉は菰野さんに殴りかかりそうではらはらする。
止めないのかと旦那様を見上げると、なにやらぶつぶつと呟いていた。
――そして。

「ぎゃっ」