行き会った人々は私たち……というよりも旦那様に道を譲り、頭を下げた。
しかし、通り過ぎたあと、ひそひそ声が聞こえてくる。

「……鬼が」

「……鬼ふぜいが」

彼らが旦那様を見る目は憎々しげだ。
菰野さんは気さくというかややもすれば慇懃無礼だから気づいていなかったが、旦那様は同じ部隊の人間に嫌われているらしい。

「おやぁー?
クサいクサいと思ったら、鬼神様がいるじゃないですかぁ。
どおりでクサいわけだ」

数人の若い将校が目の前に立ち塞がる。
痩せぎすで神経質そうに見える、階級が一番上の中尉が中心で、あとの少尉三人は取り巻きのようだ。
中尉の彼はわざとらしく鼻を摘まみ、クサいと身振り手振りしていた。
それを見て他の三人が旦那様にちらちらと視線を送りながらバカにするようにくすくすと笑っている。

「……相手にするな」

隠すように旦那様が、私を背中の後ろへ庇う。


「申し訳ございません。
客人を長官室へ案内する途中ですので、失礼いたします」

菰野さんは完全に慇懃無礼状態に入っているようだ。
彼は将校たちを邪険に押しのけ先に進もうとしたが。

「待てよ」