けれど旦那様は私が恥を掻かないでいいようにと、似合う着物を仕立ててくれた。

「……ありがとう、ございます」

浮かんでくる涙に気づかれたくなくて、頭を下げるフリをして俯いた。
あの日、鬼に嫁ぐなんてと恐怖しかなかったが、こんなに優しい旦那様にもらわれて本当によかったと思う。

「恥を掻かないようにっていうのは賛成ですけど、借りれば済む問題なんですよ、借りれば。
それを、最高に似合う着物が仕立て上がるまではダメだって勘弁してくださいよ」

もう定番になりつつある、呆れるようなため息を菰野さんがつく。
気を遣ってくださるのはありがたいですが、少しは菰野さんに迷惑をかけないようにしていただきたい。

今日も菰野さんの運転で車だが、異能特別部隊の本部まですぐなので裏道は使わない。
これから会う綱木長官とはどんな人なのだろう。
異能特別部隊の名は知れ渡っているが、長官である綱木公通は謎の存在だった。
なにしろ、公の場にまったく出てこないのだ。
しかし、鬼である旦那様を使役しているくらいだし、かなり怖い方なんだろうか。

「緊張しているのか」