旦那様がまた、満足げに頷く。
この家に来てすでに半月ほどが経っていた。
当座の着物は至急仕立てにしたので翌日には届いたが、こういう着物は丁寧な仕立てが必要なのでできあがるまでに時間がかかり、今日となったわけだ。

「よかったー。
もう、綱木長官が早く連れてこいっていうのに、この人は涼音さんの着物ができるまではダメだって頑として首を縦に振らなくて」

「え……」

つい、旦那様の顔を見上げていた。
それならば着物に拘らず、早く挨拶へ行ったほうがよかったのではないだろうか。
ああ、でも私がみすぼらしい格好をしていれば、旦那様が恥を掻く。
だからだと思ったものの。

「涼音に恥を掻かせるわけにはいかないであろう?」

意味が理解できなくて、まじまじと旦那様の顔を見る。

「やつがれは別に、あのドブネズミのような着物でもちんどん屋のような着物でもかまわないが、あんなものを着て人前に出れば涼音が恥を掻くであろう?
それはよくない」

「あ……」

温かいものが私の胸を満たしていく。
紫乃は私に恥を掻かせようと、曰く「最悪」
な振り袖を着せ、できるだけおかしくなるように帯や小物を選んだ。