気づいたときにはソファーに押し倒されていた。
情欲で光る真っ赤なルビーが、私を見下ろす。
こんな状況なのに、それがとても綺麗だと思った。

「……いいのか。
抵抗しないのなら、このまま涼音を抱くぞ」

かりっと耳朶を囓られ、正気に戻る。

「ゆ、許してください……」

「素直でよろしい」

半べそをかいて私が懇願し、旦那様は右頬を歪めてにやりと笑った。

田沢さんがお茶の準備をしてくれているあいだに旦那様は服を着替えに行った。
いくら家とはいえ、破れたままの服を着ているわけにはいかない。
戻ってきた彼はシャツとズボンという、簡単な格好になっていた。

「腹が減った……」

私の隣に腰を下ろしながら、彼が情けない顔をする。

「お夕食前ですので、これで我慢してください」

と、田沢さんが置いたのは今をときめく『今村屋(いまむらや)』のあんパンだった。

「おお、助かる」

喜んで食べている旦那様の頬からは先ほどの傷が消えていた。

「え?
え?」

「ああ、これか?」

わけがわからなくて混乱している私に気づき、旦那様は傷があった頬に触れた。