証明するかのように右手を上に向け、旦那様が指を軽く開いたり閉じたりする。
あの血飛沫は旦那様が爪で傷つけた、何者かの血液みたいだ。

「しばらくはなにもできんさ。
そのあいだに捕まえる」

「そう簡単にいきますかね」

「いくさ」

意気揚々としている旦那様とは違い、菰野さんは憂鬱そうだ。

「あの、今のって……」

旦那様が何者かと戦っていたのはわかる。
しかしあの悲鳴は、あきらかに人間のものではなかった。
ちらりと旦那様の頬にできた傷を見る。
それに、ここには旦那様に敵う妖など滅多に出ないと言っていた。
なのにこんな傷を作るなんて、その〝滅多〟なんじゃないだろうか。

「最近出る、人攫いだ。
しかし、こんな時間に出るなんて珍しいな」

そのうち明るい場所に出た。
表に戻ったようだ。

「そうですね、出るのはいつも、すっかり暗くなってからなのに」

菰野さんも首を捻っている。
日は暮れはじめているとはいえ、まだまだ明るい。

「まあいい。
さっさと片付けて休暇を取り、涼音とハニィムーンへ行くのだ」

「はいはい、そーですか」