しかしこんなことを告白するのはいたたまれず、誤魔化してしまった。

「たぶんか。
しかし、嫌いと言われなかっただけよかった」

目を細め、旦那様が嬉しそうに笑う。
その顔に。
……不覚にも、胸が甘くきゅんと音を立てた気がした。

「えっ、あっ、その」

赤くなっているであろう顔に気づかれたくなくて、俯く。
気持ちを落ち着けて顔を上げたところで、車からは見えなかった旦那様の右頬に傷ができているのに気づいた。

「だ、旦那様。
傷が」

なにか血を拭うものがないかと周囲を探す。

「ああ」

ちらりと旦那様の視線が傷を確認したいのか、右を向く。

「すぐに治る」

彼は乱雑に破れているシャツの袖で傷を拭った。

「で、でも」

「大丈夫ですよ、本当にすぐに治るんで」

ちらっとだけ確認し、菰野さんは車を出した。
旦那様をよく知っている彼がそう言うのなら、心配しなくていいんだろうか。

「どーでもいいですが、逃がしたんですよね?」

菰野さんの声には険があるが、また私たちのやりとりが気持ち悪いとか思っていたんだろうか。

「逃がした。
が、それなりの怪我は負わせた」