姿勢を自然体へ戻した途端、私が見知っている旦那様の姿に戻った。

「なにやってるんですか、あんたは」

「いや、すまん」

車に戻ってきた旦那様が、私の隣に乗る。
先ほどの姿を思い出し、怯えて身体が大きく震えた。

「やつがれのあの姿が怖いか」

そうとは言えず、笑って誤魔化そうと努力する。
しかし、顔は引き攣るばかりでうまく笑顔が作れない。

「あれがやつがれの本来の姿だ。
怖がらずに……とは、無理だな」

嘲笑するように旦那様の口から乾いた笑いが落ちる。
それはどこか傷ついているようで、胸がずきんと痛んだ。

「……正直に言って、怖い、です」

旦那様は私を食べないと何度も言ってくれたが、あの姿の彼なら簡単に私を殺して食べるんじゃないかと思った。
けれど。

「怖いですが、嫌いではないです」

恐怖を感じると同時に、とても美しいと思っていた。
白髪は透けるようで、日の光などないのにキラキラとしていた。
輝く赤い目はルビーのようだ。
長く鋭い爪はサーベルを思わせる。
大きくて立派な牙はたくましくもあり、私はその姿から目を逸らせなかったのだ。

「……たぶん」