あの夜、旦那様に食べられて私は死んだのだろう。
きっと、そうに違いない。

夢中になってそれ――パルフェとやらを食べている私の隣で、旦那様は珈琲を飲んでいる。

「とりあえず涼音はその、〝私ごとき〟という癖をやめろ」

なにを言われているのかわからず、旦那様の顔を見ていた。

「でも、私は無能ですので……」

旦那様が呆れるようにため息を落とし、びくりと身体が震える。
もしかして、機嫌を損ねた?
しかし、なぜなのか私にはわからない。

「無能でも涼音には涼音のいいところがある」

「いいところ、ですか……?」

能力もなく、陰気で要領が悪く、なにをやらせてものろまで失敗ばかり。
実家ではいつも、そう言われてきた。
そんな私にいいところなどあるとは思えない。

「そうだな、……そう、だな」

旦那様は視線を上に向けたまま、考え込んでいる。
そこまでしても私のいいところは出てこないようで、やはりないんだなと納得した。

「今から探していけばいい。
とりあえず、これだけいい匂いがするのはやつがれにとっていいところだ」

旦那様が顔を近づけてきて、私のうなじのにおいをすんと嗅ぐ。