だから、こんな特別待遇なのか。
それは納得したけれど。

「あと、やつがれはこの店の上得意だからな。
このスーツもこの店で誂えた」

軽く彼が、スーツの襟を引っ張ってみせる。

「はい。
白珱様にはとてもよくしていただいております」

私たちを出迎えてくれた男性店員は揉み手こそしていなかったが、えびす顔になっていた。

「その反物はいいな、ちょっと見せてくれ。
涼音、これを着てみろ」

旦那様に言われるがままに反物を当てられたり、絵羽を着付けてもらったりする。
しかし、どれも上等な絹で気後れした。

「あの……」

「それと、これももらおう。
あ、この三つは至急仕立てで頼む」

「かしこまりました」

私の戸惑いをよそに、どんどんお買い上げするものが積み上がっていく。

「あの!」

少し大きな声を出すとようやく、旦那様は夢中になっていた着物選びをやめた。

「どうした?」

不思議そうに彼は聞いてきたが、私こそどうしたのか聞きたい。

「その。
こんなに買っていただく必要はありませんので……」