幾久しくよろしくお願いいたします~鬼神様の嫁取り~

これで夜ならば完全にあのときとと同じだ。

しかし、旦那様は私が裏道に入れないまじないをかけたといっていた。
なのにここにいるとは、まじないは効いていないのでは?

私の疑問に気づいたのか。
旦那様が頷く。

「涼音にかけたのはひとりでは裏道に入れないまじないだ。
やつがれは移動に裏道をよく使うからな。
それにここでやつがれに敵う妖など、そうそう出ない」

なんだか私には未知の世界で、そうなんだと納得するしかなかった。

二、三分ほど走って、ぽん!と明るい場所に出た。
あれほど静まりかえっていたのが嘘のように、人々の喧噪が響く。
すぐ傍に石造り三階建ての立派な建物が見えていた。
帝都に名を轟かす『三羽(みわ)呉服店』だ。
ここまで屋敷から路面電車を使っても十五分はかかるのに。

「裏道とはそういうものなのだ」

信じられなくてきょろきょろしている私がおかしいのか、旦那様は笑っている。
とりあえず裏道が、人知が及ばない場所なのだというのだけは理解した。

「じゃあ、二時間後に迎えに来ますので」

「えっ、帰るんですか」

車を降りようとしない菰野さんに聞いていた。