幾久しくよろしくお願いいたします~鬼神様の嫁取り~

「さあさあ。
こんなところなどにおらず、お部屋に戻りましょう」

「あの、その」

戸惑う私を無視して彼女は私の手からぞうきんを取ってバケツの中に入れ、背中を押していく。
そのまま自室へ連れていかれ、強引にソファーへ座らされた。

「少々お待ちくださいね」

「あ……」

私がなにも尋ねられないうちに彼女は部屋を出ていった。
ばたんとドアが閉まり、制止しようと上げた私の手だけが虚しく取り残される。

「……どういう、こと?」

掃除をしていて怒られるとは思わない。
ああ、あれか。
やり方が違うから下手に手を出されると困るとか?
実家は基本和建築だったが、ここは西洋風なので掃除の方法も違うのだろう。
ならば正しいやり方を乞わねば。

「おまたせしましたー」

少しして田沢さん……だけでなく、もうひとりのメイドの船津(ふなつ)さんも一緒に戻ってきた。

「さあ、お風呂に入りましょう!」

「えっと……」

またぐいぐいと私の肩を押し、ふたりは部屋に併設されている浴室へと私を連れていく。

「旦那さまが、涼音さまはたぶん、昨晩は湯を使っていないんじゃないかとおっしゃっていて」