幾久しくよろしくお願いいたします~鬼神様の嫁取り~

慣れない食事は疲れるが、それでもお腹いっぱい食べられるというのは、いい。

「では、いってくる」

「いってらっしゃいませ、旦那様」

今朝も玄関で仕事に行く旦那様を見送った。
なにかと騒がしい彼がいなくなりひとりになったのはいいが、なにをしていいのかわからない。
今まではなにか用事を命じられない限り、できる家の用事をすべてやっていた。
それに能力もなく紫乃のように未来視もできない私にできることといえば、掃除洗濯しかない。

「とりあえずお掃除かな」

掃除道具を求めて屋敷の中をうろうろする。
台所のほうで楽しそうな話し声がしているので、そちらは避けた。
そのうち、納戸のような場所を見つけたので開けてみたら掃除道具が入っていた。

「よし」

そこからバケツとぞうきんを拝借する。
確かに旦那様の言うとおりぞうきんはあの晩、私が着ていた着物よりもずっと綺麗だった。

ぞうきんを絞り、玄関脇から二階へと続く階段の手すりを磨いていく。
本当に立派な屋敷だ。
貴族の中でもここまでの家に住んでいるのは珍しい。