幾久しくよろしくお願いいたします~鬼神様の嫁取り~

私ごときのためにそんな出費や造作をさせるなど、許されるわけがない。

「床の上に直接寝るのは埃がするだろ?
特に我が家は土足だからな」

証明するかのように旦那様は、スリッパを履いた足でとんとんと軽く床を叩いた。

「このあたりがいいかと思うが、ちと狭いな。
ああ。
ソファーとテーブルを片付けて、畳の上でお茶を飲めるようにするか」

なにやら彼は思案しているが、そこまでしてもらう必要などない。

「あの。
今日からはベッドで寝るので大丈夫、です」

そうすれば旦那様がいろいろしなくていい。
それにここで暮らしていくのならばどのみち、ベッドに慣れなければならないのだ。

「別に遠慮などしなくていいのだぞ?」

心配そうに彼が、眉を寄せる。

「別に遠慮などしていません。
お気遣い、ありがとうございます」

大丈夫だというふうに笑顔を作り、旦那様を見上げる。

「なら、いいが」

ようやく彼は納得してくれたようで、ほっとした。

身支度を済ませて食堂へ来た私を見て、新聞を読んでいた旦那様が眉をひそめる。

「昨日の着物も酷かったが、今日のも酷いな。
ドブネズミか、それは」